COLUMN

受託からの事業化

受託だけの会社がAI時代に始める自社事業の選び方業務知識・顧客・技術を棚卸しして1つに絞る

2026年10月21日公開 / ハコブネ編集部

AIの津波に飲み込まれるか、ハコブネに乗るか。

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公開 2026年10月21日/最終更新 2026年10月21日 | 監修:池田 龍一(株式会社Walkers 取締役) | 読了 約11分

受託だけの会社がAI時代に始める自社事業の選び方

受託の仕事だけで会社を回してきて、売上は取引先からの依頼で決まり、自社の商品と呼べるものはまだない。そうした少人数の制作会社や受託開発会社は少なくありません。AIで作る作業が速くなるのを見て、そろそろ自社事業を持ちたいと考えていても、何から選べばよいか分からないという状態になりがちです。

自社事業の候補は、世の中の流行から探すより、自社がこれまでの受託で積んできたものから探すほうが選びやすくなります。受託の会社には、取引先の業務の知識、信頼関係のある顧客、納品してきた技術という3つの資産があるからです。

この記事では、その3つの資産の棚卸しの仕方と、棚卸しから候補を出す4つの型、候補を1つに絞る基準を説明します。受託だけの会社でも、自社事業の材料はすでに手元にあります。

この記事について

書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。

一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。

受託の会社が持っている3つの資産を棚卸しする

受託の会社が持つ3つの資産を棚卸し

自社事業を選ぶ前に、受託で積んできたものを書き出します。会議室で新しいアイデアを出し合うより、過去の案件を見返すほうが具体的な候補が出ます。

業務知識:どの業界の、どの業務に詳しいか

過去の案件を業界ごとに並べ、それぞれで取引先のどの業務に触れたかを書きます。予約の受付、在庫の管理、会員の管理、求人の掲載など、業務の名前で書くのがこつです。何度も同じ業界の案件を受けているなら、その業界の言葉や商習慣を自社が知っているということです。業界の言葉が分かる会社は、取引先の担当者と話すときに説明の手間が少なく、それだけで信頼を得やすくなります。

顧客:誰に、すぐ話を聞きに行けるか

今の取引先と過去の取引先のうち、新しい試作を見せたら話を聞いてくれそうな相手を書き出します。担当者の名前まで書けると、後の工程で動きやすくなります。顧客の一覧は、自社事業の最初のお客さんの候補でもあります。

技術:何を、どの速さで作れるか

自社が得意な技術と、短く作れる種類のものを書きます。業務システム、会員サイト、LP、マッチングの仕組み、動画など、納品してきた形で書くと分かりやすくなります。AIを使って作る速さが上がっているなら、それも書き添えます。

株式会社Walkersの代表は、エフェクチュエーションの考え方が自分の起業のプロセスに近いと話しています。その5原則の1つ目は「手持ちの資源から始める」です。棚卸しは、この手持ちの資源を目に見える形にする作業です。

棚卸しから候補を出す4つの型

棚卸しから候補を出す4つの型

3つの資産を書き出したら、組み合わせて自社事業の候補を出します。受託の会社が始めやすいのは、次の4つの型です。

1つ目は、受託で何度も頼まれた作業を商品にする型です。複数の取引先から同じ種類の依頼が来ているなら、それを定型のサービスやツールにします。依頼の履歴からの見つけ方は、受託で何度も頼まれる作業は、プロダクトの種になる|見つけ方と3つの判定で詳しく扱っています。

2つ目は、自社の業務で先に使ってから外に出す型です。自社の困りごとを自社の技術で解決し、使い込んでから他社に提供します。自社が最初のユーザーになるので、使い勝手を確かめやすいのが利点です。

3つ目は、すでにある事業を引き継ぐ型です。自社でゼロから作るのではなく、他社が運営してきた事業を譲り受け、自社の開発の力で続けます。4つ目は、取引先の業界とは関係なく、自社のメンバーが詳しい領域で始める型です。メンバー自身が利用者の立場にいるので、利用者の困りごとを想像しやすくなります。

どの型が合うかは、会社によって違います。同じ業界の案件が多い会社は1つ目の型が向いています。社内の事務作業に手間がかかっている会社は2つ目の型で、自社の困りごとから始められます。開発の人手に余裕があり、事業の運営を任せられるメンバーがいる会社なら、3つ目の型も選択肢に入ります。4つ目の型は、メンバーに強い関心や経験がある領域がある会社に向いています。

Walkersの事業開発ラボに見る、自社事業の並べ方

資産に合わせて複数の型を並べる

受託開発の会社であるWalkersは、トップページで「Walkersが進める新規事業」として、複数の自社事業を並行して掲載しています。4つの型に当てはめると、選び方の違いが見えてきます。

自社で先に使う型と、作業を商品の形にした例

FDE-NOAHは、メール・営業・経理・議事録など会社の定常業務をAIが監視・自動処理し、判断が必要な場面だけ人に届ける仕組みです。Walkersは自社の経営で先に運用しています。2つ目の型、自社の業務で先に使ってから外に出す例です。

HP Answerは、ヒアリングシートだけで打ち合わせ0回、AIが構成・デザイン・実装まで行い、48時間以内に動く初稿を3パターン提示するサブスク型のホームページ制作サービスです。このサービスがどういう経緯で生まれたかは公開されていないので、ここでは4つの型には当てはめません。ホームページ制作という作業を、打ち合わせの要らない定額の商品の形にした例として挙げておきます。

引き継ぐ型と、自分たちの関心から始める型

Aivis Projectは、AI音声合成の事業です。Walkersは、JPchain株式会社が運営していたAivis Projectの全事業を譲り受けることに合意したと発表しました。3つ目の型、すでにある事業を引き継ぐ例です。

バスケしようよ!は、エリアと日付でゲームを横断検索して個人で参加でき、主催者は数分で募集ページを公開できる、草バスケの募集プラットフォームです。受託の取引先とは関係のないB2Cのサービスで、利用者の声をもとに改善を続けています。

ほかに、受託と自社の新規事業を並行してきた経験をもとにしたAI×事業開発のコミュニティ、ハコブネも掲載されています。どの事業も売上やユーザー数は公開されていないので、成果の大小をここで比べることはできません。並べ方から読み取れるのは、1つの型に決め打ちせず、資産に合わせて複数の型を並べてもよいということです。受託開発会社が自社プロダクトを持つときの型は、受託開発会社の自社プロダクト戦略|SaaS化・横展開・事業譲受の3つの型でも整理しています。

候補を1つに絞る4つの基準

候補を1つに絞る4つの基準

候補が複数出たら、最初に取り組む1つに絞ります。少人数の受託の会社が一度に複数の自社事業を始めると、受託の繁忙期にどれも止まりやすいからです。次の4つの基準で比べます。

1つ目は、コンセプトを一文で言えるかです。Walkersの代表は、新規事業のコンセプトは5W1H(誰が・いつ・何を・どこで・どうやって・なぜ)を埋めるとそのままコンセプトになると話しています。埋められない項目が多い候補は、まだ選ぶ段階に来ていません。

2つ目は、既存の顧客に話を聞けるかです。棚卸しで書いた顧客の一覧の中に、その候補を見せられる相手が何人いるかを数えます。話を聞ける相手がいる候補ほど、作る前に確かめやすくなります。

3つ目は、売れなかったときに受託の側に回収できるかです。作ったものを受託の提案や実績、次の案件の部品として使えるなら、挑戦しても沈みません。4つ目は、競合がいるかです。代表は、競合がいるのは市場があるということだと話しています。競合がまったくいない候補は、買う人がいない可能性も疑います。

4つの基準をすべて満たす候補は多くありません。迷ったときは、2つ目の既存の顧客に話を聞けるかを優先します。話を聞ける相手がいれば、ほかの基準は試作を見せながら確かめられるからです。比べるときは、候補ごとに4つの基準を〇と×で表にすると、メンバーの間でも話がまとまりやすくなります。

絞った候補を作る前にどう確かめるかは、ニーズ検証とは。作る前に買う理由を確かめる4つの手順と判断の基準が参考になります。

自社事業を選ぶときにつまずきやすい3つの点

自社事業選びでつまずく3つの点

棚卸しをして候補を絞っても、選び方でつまずく会社があります。よく起きるのは次の3つです。

1つ目は、AIを使うこと自体を目的にしてしまうことです。「AIで何か作ろう」から始めると、誰の何を解くかがぼやけます。AIは作る手段で、選ぶ基準は顧客と業務の側に置きます。作るのが速くなった今、他社との差をどこで作るかは参入障壁の作り方と、作るのが速くなった今どこに作るかで整理しています。

2つ目は、取引先のために作ったものをそのまま自社の商品にしようとすることです。受託の成果物の権利が取引先にある場合や、秘密保持の約束がある場合は、そのまま使えないことがあります。受託の知見は使えても、成果物をそのまま使えるとは限りません。契約で確認する点は受託の成果物を自社製品に使ってよいか|契約で確認する5つの点にまとめています。判断は弁護士など専門家に確認してください。

3つ目は、会社の全員で同時に取り組もうとすることです。受託の売上を守りながら進めるには、自社事業の担当を決め、その人の週の時間を先に押さえるほうが進みます。失ってよい時間とお金の上限も、会社として先に決めておきます。

よくある質問5選

よくある質問5選

質問1受託の取引先と同じ業界で自社事業を始めても大丈夫ですか?

業務知識を活かせるので、始めやすい選択です。ただし、取引先と競合する商品になる場合や、契約に競業を避ける約束がある場合は注意が必要です。契約の内容を確認し、判断に迷う場合は専門家に相談してください。

質問2候補が1つも出てこない場合はどうすればよいですか?

過去の案件の見積もりと議事録を見返し、取引先が毎回同じことで困っていた場面を探してください。それでも見つからない場合は、自社の業務で手間がかかっている作業を書き出すと、自社で先に使う型の候補が出てきます。

質問3自社事業は受託と同じ業種でないといけませんか?

そうとは限りません。Walkersのバスケしようよ!のように、受託の取引先とは関係のない領域で始める型もあります。その場合は、メンバー自身が利用者の立場で困りごとを知っていることが強みになります。

質問4事業を引き継ぐ型は、少人数の会社でも選べますか?

選択肢にはなりますが、引き継ぐ事業の利用者への責任や契約の確認など、検討することが多い型です。最初の1本としては、受託の知見を使う型や自社で先に使う型のほうが、小さく始めやすいことが多いです。

質問5一度にいくつの自社事業を並行してよいですか?

少人数の受託の会社なら、最初は1つに絞ることをおすすめします。1本目で、試作を作り、有料モニターに使ってもらい、正式に売り出すまでの流れを経験してから、2本目を考えるほうが、受託との両立を崩さずに進めやすくなります。

過去の案件一覧から、3つの資産を書き出す

最初の一歩は、過去1〜2年の案件一覧を開き、業務知識・顧客・技術の3列で書き出すことです。書き出した表を見ながら4つの型に当てはめると、自社事業の候補がいくつか見えてきます。そのうえで4つの基準で1つに絞り、既存の顧客に話を聞きに行ってください。

ハコブネは、受託と複数の自社事業を並行してきた株式会社Walkersが運営するAI×事業開発のコミュニティです。受託の会社が自社事業を選び、試作から正式に売り出すまでを、仲間と一緒に進められます。入会を前提にしない無料相談会もあるので、棚卸しした資産からどの自社事業を選ぶか迷ったら、相談に来てください。

この記事について

池田 龍一

執筆:ハコブネ編集部 / 監修:池田 龍一

株式会社Walkers 取締役

池田は、ITとノーコードの事業開発・教育事業の立ち上げを経て2021年にWalkersを共同創業。100件以上のシステム開発に携わり、要件がまだ固まっていない案件や、他社から引き継いだ開発の立て直しを担当しています。

株式会社Walkersは、AI駆動開発・ノーコード開発のシステム開発会社です。累計開発実績300件、200社以上の支援、自社メディアの累計100万PV。受託開発と並行して、自社でも複数の新規事業を立ち上げています。

最終更新:2026年10月21日

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