この記事の内容
受託の合間に自社サービスを作ろうとすると、開発の時間とお金をどう工面するかで悩みます。そこで補助金を調べ始める受託業者もいるでしょう。ただ、自社サービスの開発に補助金を使う場合、受託業者ならではのつまずき方があります。
たとえば、自分で開発する作業がそのまま補助の対象になるとは限りません。制度によっては採択されても入金が後になり、受託の繁忙期と書類の締切が重なることもあります。この記事では、補助金を前提にしない考え方から、使う前に決めること、対象になりやすい費用とならない費用の見分け方までを、受託業者の立場で整理します。
新規事業全般で補助金を使う前の基本は新規事業の補助金|使う前に決めることと探し方の基本で書いています。この記事は、作る力を持つ受託業者が自社サービスに補助金を使うときの話に絞ります。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
補助金は「あれば助かる」くらいの位置に置く

補助金がなくても進められる計画にしておく
補助金は、申請すれば必ず受け取れるものではありません。審査があり、公募の時期も制度ごとに決まっています。補助金が出る前提で計画を組むと、不採択になったときに開発がまるごと止まります。
ハコブネ式では、受託を続けながら、失ってよい時間とお金の上限を先に決めて進めます。補助金は、その上限の内側で進む計画に、後から足せる追い風として扱います。開発費を最小にする設計は新規事業の立ち上げ資金を最小にする設計と上限の決め方で整理しています。
補助金より先に、有料モニターで小さく売る
受託業者には作る力があります。補助金の審査を待つより、小さく作って既存顧客や交流会で有料モニターを募るほうが、早く確かめられることがあります。有料モニターの売上は額が小さくても、買う人がいるという証拠になります。
その証拠は、あとで補助金を申請するときの事業計画にも使えます。誰が、なぜお金を払ったのかを書ける計画は、想定だけの計画より説得力が出ます。有料モニターの進め方は有料モニターの集め方と価格の決め方|正規リリース前に実績を作るで書いています。
受託業者が補助金でつまずきやすい3つの場面

自分の作業が「経費」にならないことがある
受託業者が自社サービスを自分で作る場合、使っているのは主に自分の時間です。補助金では、対象になる経費の種類が制度ごとに決められています。自分や自社の社員の作業が対象になるかどうかも、制度によって扱いが違うため、公募要領で確認が必要です。
つまり、作る力がある人ほど、補助の対象になる支払いが少なくなることがあります。申請を考える前に、開発費のうち外に払う部分がいくらあるのかを書き出してみてください。
入金が後になり、その間の資金が要る
補助金の支払いの時期は制度ごとに決まっており、事業を実施して報告したあとに支払われる形の制度もあります。その場合、入金までは自分で費用を立て替えることになります。支払いの流れは公募要領で確認しておきます。受託の売上で立て替えられるのか、入金が遅れた場合に受託の外注費や生活費に響かないかを確かめておきます。
書類の締切と受託の繁忙期が重なる
申請書、実施中の記録、終わったあとの報告と、補助金には書類の作業が続きます。見積書や請求書、支払いの記録を、決められた形で残すよう求められることもあります。受託の経理と自社サービスの経理が混ざっていると、後から集め直すのに時間がかかります。受託の納期が重なる時期に締切が来ると、どちらかが崩れます。補助金を使うなら、申請から報告までにかかる自分の時間も、開発の時間と同じように週の予定に入れておきます。受託と自社の時間の割り振りは受託と自社プロダクトの両立|時間と売上の比率を決める目安で目安を書いています。
申請を考える前に決めておく4つのこと

公募要領を読み始める前に、自分の側で決めておくことがあります。ここが決まっていないと、制度に合わせて計画を書き換えることになり、作りたかったものから離れていきます。
誰の、どんな課題を解くのか
最初に決めるのは、自社サービスが誰のどんな課題を解くのかです。受託業者なら、取引先から何度も頼まれた作業や、納品のたびに聞かれる困りごとが手がかりになります。ここが一文で言えないうちは、補助金の申請書も書けません。
自分で作る部分と、外に頼む部分の境目
次に、開発のうち自分で作る部分と、外部に頼む部分を分けます。受託業者は全部を自分で作れることが多いので、この境目を意識しないまま計画を立てがちです。外に頼む部分が小さいなら、補助金を使う手間に見合わない場合もあります。
立て替える資金と、その期間
入金が後になる前提で、いくらをどのくらいの期間立て替えられるかを決めます。受託の売上の波を見て、立て替えが重なっても生活と外注費が回る金額にとどめます。
不採択だったときの進め方
最後に、採択されなかった場合にどう進めるかを決めておきます。規模を小さくして自分で作る、有料モニターの売上で少しずつ進める、次の公募まで待つ、などです。不採択のときの進め方が決まっていれば、補助金の結果で事業そのものが止まることはありません。
自社サービス開発で使えるもの・使えないものの見分け方

ここでは特定の制度の補助率や上限、締切は挙げません。年度や回ごとに変わるためです。制度名を見つけたら、必ず最新の公募要領で確認してください。そのうえで、受託業者が公募要領を読むときに見る点を整理します。
対象になりやすい費用の傾向
公募要領では、対象になる経費の種類が決められています。自社サービスの開発で関係しやすいのは、外部に開発の一部を頼む費用、ソフトウェアやクラウドサービスの利用料、広告や販路開拓の費用などです。どれが含まれるかは制度ごとに違うため、自分の計画の支出を一つずつ公募要領の区分に当てはめていきます。
対象になりにくい費用の傾向
一方で、決められた日より前に発注や契約をしたもの、事業と関係の薄い汎用の機器、日常の運転資金などは、対象外とされることがあります。どう扱われるかは、制度ごとに公募要領で確認します。受託の仕事にも使う機材や外注費は、自社サービスの分と区別できるかが問われることがあります。
迷うのは、受託でつきあいのある外注先に自社サービスの開発を頼む場合です。受託の仕事と同じ相手に発注するなら、見積書や契約書を受託の分と分け、どの支払いが自社サービスのものかを後から示せるようにしておきます。
受託の経験は、計画の裏づけとして書ける
申請書では、事業を実行できる体制があるかを問われることがあります。受託業者は、開発の実績や、対象の業界の取引先とのつきあいを持っています。どの業界の、どんな業務の開発を何度引き受けてきたのかは、作れるかどうかの裏づけとして書けます。
ただし、受託の取引先の名前や、受託で知った情報を申請書に書く場合は、秘密保持の約束にかからないかを先に確かめます。取引先の名前を出したいときは、本人の了解を取ってからにします。
判断に迷ったら、事務局と専門家に確かめる
対象になるかどうかは、自分で決めつけずに確認するのが前提です。公募要領の読み方に迷う点は、事務局の問い合わせ窓口や、補助金の申請支援をしている専門家に確認してください。この記事の内容は、確認するときの目のつけどころとして使ってください。
取引先の補助金で、受託の提案を強くする

受託業者と補助金の関係は、自社サービスに使う道だけではありません。取引先が補助金を使ってシステムを作る場合、受託業者は発注を受ける側になります。
Walkersの公開事例では、療育支援のOne Companyが、ユーザー数に比例して費用が増える既存システムを、自社専用システムに置き換える開発を依頼しています。3社を比べたうえで、補助金と組み合わせた提案が採用されました。取材の時点では、まだ利用開始前でした。外国人人材の株式会社マックスの事例では、マックスがものづくり補助金を使い、Walkersがコーポレートサイト・外国人向け求人サイト・メディアの立ち上げと運用を一括で受託しています。ものづくり補助金の内容も年度で変わるため、最新の公募要領で確認が必要です。
取引先の補助金に詳しくなることは、受託の提案を強くし、そのまま業界の課題を知る機会にもなります。補助金を使ってまで作りたいシステムには、同じ業界の他社も困っている業務が含まれていることがあります。受託で何度も頼まれる作業は、自社サービスの種になります。
Walkersの補助金申請支援の公開事例と読み方

Walkersは、システム開発と並行して補助金の申請支援も行っています。補助金申請支援のページには、教育のeラーニングで750万円、広告プラットフォームで660万円、不動産のオンライン化で520万円という支援事例が掲載されています。
公開事例は業種名と金額だけなので、ここから制度名や補助率、自分の計画で受け取れる額を推し量ることはできません。同じページにある補助金の一覧も時点の古い情報なので、制度を調べるときは、必ず最新の公募要領を見てください。事例から読み取れるのは、開発会社が補助金の申請支援まで手がけることがある、という点にとどまります。
少人数の受託業者が開発と申請の書類を一人で抱えると、どちらかが手薄になりやすくなります。申請の部分は、補助金の申請支援をしている専門家の手を借りることも考えておきます。受託業者が自社サービスで補助金を使う場合も、何を、誰のために、なぜ作るのかを先に固めておくほど、申請書は書きやすくなります。
よくある質問5選

質問1フリーランスでも、自社サービスの開発に補助金を使えますか?
個人事業主が対象になる制度もありますが、対象者の条件は制度ごとに違います。最新の公募要領で対象者の欄を確認してください。
質問2自分で開発した時間を、補助金の対象にできますか?
制度によって扱いが違い、対象にならないこともあります。自分の作業の扱いは、公募要領と事務局で確認してください。
質問3補助金が採択されるまで、開発を始めないほうがよいですか?
決められた日より前の発注や契約が対象外になる制度もあるため、何をいつ始めてよいかは公募要領で確認します。一方で、補助金を使わない範囲の小さな試作や有料モニターは、採択を待たずに進められます。
質問4受託の売上が少ない時期でも、申請してよいですか?
制度によっては入金までの立て替えが必要になるため、その間の資金を受託の売上で回せるかを先に確かめてください。
質問5取引先に補助金の活用を提案してもよいですか?
取引先の計画に合う制度があれば、選択肢として伝えることはできます。採択や対象経費を約束する言い方は避け、判断は取引先と事務局、専門家に委ねます。
補助金を探す前に、自社サービスの計画を1枚にまとめる
最初にやることは、制度を探すことではありません。自社サービスを誰に、何のために作るのか、外に払う費用はいくらか、失ってよい時間とお金はどこまでかを、1枚に書き出してください。その1枚があれば、補助金がなくても進め方が決まり、補助金が合いそうなときは公募要領と照らし合わせられます。受託から自社プロダクトへの進め方は脱受託はいきなり目指さない|受託→有料モニター→正規リリースの4段階で書いています。
ハコブネは、受託と自社の新規事業を並行してきた株式会社Walkersが運営する、受託業者のためのコミュニティです。受託を続けながら自社サービスを出すための計画や、資金の考え方を会員同士で確かめています。自社サービスの計画や補助金の位置づけに迷っている方は、入会を前提にしない無料相談会で相談してみてください。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年10月21日
