この記事の内容
新規事業のプロセスを工程の絵で描くと、だいたいうまくいっているように見えます。実際に止まるのは工程ではなく、工程と工程の間にある判断のほうです。プロセスとは、何をやるかの一覧ではなく、誰が何を決め、どこで次に進むかを先に決めておく仕組みのことです。 この記事では、決めることを4種類に分け、それぞれに決定者を置き、進む判断(ゲート)を3か所に置く形を整理します。社内で進める場合と個人で進める場合では、詰まる場所も対処も違うので、分けて書きました。工程を時間の流れで追いたい場合は、別の記事にまとめています。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
プロセスと流れは、別のものとして扱う
新規事業の進め方を説明するとき、たいてい工程の順番が出てきます。現状整理、対象を決める、コンセプト、顧客、MVPを作って動かす、改善、リリース、集客設計。ハコブネの新規事業立ち上げゼミ(3ヶ月・全6回・最大2名の個別伴走)も、この順番で進めています。順番そのものについては、流れを追った記事のほうに書きました。
ここで扱うのは、その矢印のほうです。工程表が止まるのは工程の中ではなく、次に進んでいいかを誰も決めていない矢印の上です。 「一旦持ち帰ります」で終わった打ち合わせの数だけ、矢印が伸びていきます。
同じ工程表でも、決め方が違えば所要時間はまったく変わります。 作業量が同じでも、判断が1週間止まる回数が5回あれば、それだけで1ヶ月以上が消えます。プロセスを設計するというのは、この止まる回数を減らす作業です。
決めることは4種類しかない
立ち上げ中に出てくる判断は数え切れないように見えますが、性質で分けると4つに収まります。分けたうえで、それぞれに決定者を1人置きます。
- 対象の決定:何を立ち上げるか、何をやらないか
- 中身の決定:誰のどんなときを解くか、何を先に作るか
- お金の決定:いくらまで使うか、いくらで売るか、誰に頼むか
- 継続の決定:いつまで続けるか、どうなったらやめるか
この4つを同じ会議で同じ顔ぶれが決めようとすると、話が混ざります。価格の話をしていたはずが対象の話に戻り、また価格に戻ってくる。領域ごとに最終決定者を一人ずつ置いておくと、合議で止まる時間がはっきり減ります。
決定者が決まっていると、途中の変更にも耐えられます。UPSTA JapanのApoLinkは、テストマーケでマッチング機能の反応が良かったため、開発の途中で作る順番を組み替え、それでも予定どおりリリースしています。開発は2ヶ月半、リリースから1ヶ月半で会員は200人弱です。中身の決定を途中で変えられたのは、変える判断の材料を先に取りに行っていたからです。
対象の決定そのものが変わることもあります。サカチムプラスは、個人が運営する「サカチム」の有料版で、当初は検索サイトの強化を想定していました。対話を重ねるなかで「チーム専用ホームページの質」のほうへ方向が変わり、配色は100種類が実装されています。既存のサカチムには164チームが登録しています。変えた判断が残っていることと、決めていないことは違います。
ゲートは3か所に置く
ゲートは、次の工程に進んでよいかを判断する場所です。毎週の打ち合わせを全部ゲートにすると形骸化するので、3か所に絞ります。
ゲート1:対象を1つに決めるとき。 通す条件は、手持ちの資源だけで着手できること、そしてWho・When・Whatが一文で書けていることです。株式会社Walkers代表の渡邊敦司は、公開しているポストで、Who・When・What・Where・How・Whyを埋めると新規事業のコンセプトになると書いています。ここで2案を並走させたまま通すと、後ろの工程すべてが二重になります。
ゲート2:作り始めるとき。 通す条件は、合格ラインが数字で置けていることです。ハッカソンで運営が作った記録アプリのBENLOGは、確かめる仮説を「うんちを育てるためなら、人は毎日トイレを記録するのか」の一点に絞り、7日後の継続率40%、30日後20%、1日平均3.5件という合格ラインを置いていました。これは検証前に置いた目標値で、実測ではありません。合格ラインを後から決めると、どんな結果でも良く見えます。
ゲート3:広げるとき。 通す条件は、自分以外の手元で実際に動いたことです。高福合同会社のツナガルは、会員システムをLINE公式アカウントと連携して1ヶ月で開発し、開始から約2ヶ月で会員12名・LINE約60名になっています。数はまだ小さくても、動いているかどうかは判定できます。
ゲートで見るのは進捗ではなく、次の工程に必要な材料が揃ったかどうかです。 そしてゲートを置くときは、通らなかった場合にどこへ戻るかもセットで書いておきます。戻り先が決まっていないゲートは、実質的に全部通ることになります。
社内で進めるときの決め方
社内の新規事業は、決定者が構造的に増えます。手を動かす担当、直属の上司、予算を持つ役員、既存事業の部門長。全員が少しずつ決定権を持っている状態は、誰も決めていない状態とほとんど同じです。
先に置くべきは、スポンサーを1人決めることです。ここで言うスポンサーは、お金の決定と継続の決定を持つ人のことです。この2つさえ一人に寄せてあれば、対象と中身の決定は担当側に下ろせます。
もう一つは、稟議で何の許可を取りに行くかです。社内で通りにくいのは「作る許可」で、通りやすいのは「確かめる許可」です。 金額と期間が小さく、外れたときに何を捨てるかがはっきりしているほど、判断は速くなります。ゲート2までを一つの稟議にまとめるのは、そのための形です。
判断の材料を出す速さも、そのまま所要時間になります。WalkersのHP Answerは、ヒアリングシートだけで打ち合わせ0回、48時間以内に初稿を3パターン出す形にしています(制作費0円・月額4,900円)。社内で議論する前に、比べられる案が3つ手元にあるかどうかで、会議の中身が変わります。
外部に出す判断も、比べてから決めるほうが後で揉めません。京都大学のKULALIS(約200研究室・約700人の利用想定、年間処理400件、開発6ヶ月)では、4社の見積もりを比べたうえで開発先を決めています。資金の調達先を広げる選択もあります。株式会社マックスは補助金を使ってコーポレートサイト・外国人向け求人サイト・メディアを立ち上げ、通常1週間(最短3日)かかっていた求人更新を30分〜1時間にしました。制度の内容や要件は年によって変わるため、使う前に最新の情報を確認してください。
最後に、社内特有の論点として、成果を誰の実績として扱うかを先に決めておくことを勧めます。ここが曖昧なまま数字が出ると、続けるかどうかの話に評価の話が混ざります。
個人・少人数で進めるときの決め方
一人の場合、4種類の決定者はすべて自分です。決めるのは速い一方で、通す基準を自分で下げられてしまいます。一人のプロセスで壊れやすいのは、決定の速さではなく、ゲートの厳しさです。
対策は3つあります。
- 決めた日と理由を1行で残す。 何を根拠に通したかが残っていると、後から迷ったときに同じ議論をやり直さずに済みます
- ゲートの判定だけ、外の目を1人入れる。 相談役ではなく、通す・通さないを言ってもらう相手として頼みます
- 期限を先に切る。 Walkersが自社で出したPrompt Labは、構想からベータ版の公開まで3週間でした。期限が先にあると、入れる機能が自動的に絞られます
外の目は、工程ごとに分けてもかまいません。ハコブネでは月額4,980円(税込・入会金や解約金は0円)で、Discord、10分の個別メンタリング、定期報告会、イベントを回しています。ランチ会は月1〜2回、1回60〜90分で、2026年9月4日の回は7名(うち2名はメンバー以外で、事業開発が本職の人と社内新規事業の担当者)でした。1DAY新規事業立ち上げイベントは会員が参加費無料・一般3,000円で、次回は2026年9月19日と10月18日です。
少人数のチームの場合は、人数が少ないぶん役割が重なりやすくなります。2人でも、4種類の決定のどれを誰が持つかは書き出しておいたほうがいいです。
止まりやすい工程と、その対処
どこで止まるかは、だいたい決まっています。
対象が決まらない。 候補を絞り切れず、複数案を並走させている状態です。対処は、判断の期限を日付で切ること。ゼミで「立ち上げる対象を1つに決める」が独立した工程になっているのは、ここが自然には終わらないからです。
顧客に当たる前に作り始めている。 手を動かすほうが気持ちが楽なので起きます。ゲート2を置いて、合格ラインが書けるまで着手しないと決めるのが対処です。
作りながら仕様が増える。 中身の決定者が実質的に複数いると必ず起きます。決定者を一人に戻し、増やしたい機能が合格ラインの判定を変えるかどうかで切ります。判定を変えない機能は、いま作らなくても結論は同じです。
出したあとに手が止まる。 リリースが終わりとして扱われている状態です。改善を誰が、どの頻度で見るかを決めておきます。一番飯店(1952年創業・高田馬場・スタッフ4名)では、紙伝票とトランシーバーの運用をノーコードのオーダーシステムへ置き換え、オーダーの労力は約50%削減されたと依頼者は話しています(依頼者の体感)。導入から約2年が経っています。
途中で見通しが立たなくなった。 止まるというより、進んでいるかどうかが分からなくなる状態です。クリスタルロードのCalmspotは、自社開発で見通しが立たなくなった状態から引き継いで開発したもので、当初200〜300万円と見ていた予算に対して開発コストは50%以上削減できたと依頼者は話しています(依頼者談)。期間は3〜4ヶ月でした。ハコブネの監修を務める池田龍一(株式会社Walkers 取締役)は、100件以上のシステム開発に携わり、要件が固まっていない案件や他社から引き継いだ開発の立て直しを得意としています。体制ごと組み直す判断も、プロセスの中にある選択肢の一つです。
よくある質問5選
質問1プロセスと、工程の流れは何が違いますか?
流れは順番、プロセスは決め方です。同じ順番で進めていても、誰が何を決めるかとゲートをどこに置くかが違えば、かかる時間も止まる場所も変わります。順番のほうを時間軸で追いたい場合は、立ち上げの流れをまとめた記事を参照してください。
質問2ゲートは3か所で足りますか?
多くの場合は足ります。増やすほど判断の場が形だけになりやすく、結果として全部通るようになります。むしろ大事なのは、通らなかったときにどこへ戻るかを、ゲートごとに先に書いておくことです。
質問3社内で、上が決めてくれないときはどうすればいいですか?
決めてもらう対象を「作る許可」から「確かめる許可」に変えると、判断が下りやすくなります。金額と期間、外れたときに捨てるものを一緒に出すのが前提です。それでも下りない場合は、お金と継続の決定を持つ人が誰なのかが特定できていない可能性があります。
質問4一人でやる場合も、ゲートは要りますか?
一人のほうが要ります。決定者がすべて自分なので、通す基準を自分で下げられてしまうからです。判定だけを外の人に頼む、合格ラインを先に書いて動かさないといった形で、自分の判断を縛る仕組みを入れておくと機能します。
質問5決めたことが、後から何度もひっくり返ります。
決めた内容ではなく、どの種類の決定だったかを見てください。対象の決定が何度も戻るなら、ゲート1を通した条件が緩かったということです。中身の決定が動くのは、材料が増えているなら健全な場合もあります。決めた日と理由を残しておくと、この区別がつきます。
この記事で触れた事例の出典
- 新規事業立ち上げゼミ
- 1DAY新規事業立ち上げイベント
- ハッカソン/BENLOG(2026年8月23日・目白台)
- ランチ会レポート(池袋・2026年9月)
- UPSTA Japan 様 インタビュー(ApoLink・株式会社Walkers)
- サカチムプラス 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- ツナガル 様 インタビュー(高福合同会社・株式会社Walkers)
- 京都大学 KULALIS 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- 株式会社マックス 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- HP Answer(サービス紹介・株式会社Walkers)
- Prompt Lab(開発実績・株式会社Walkers)
- 一番飯店 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- クリスタルロード 様 インタビュー(Calmspot・株式会社Walkers)
- 池田龍一(株式会社Walkers 取締役)
最終更新:2026年9月16日
