この記事の内容
新規事業の失敗事例を探すと、大企業の撤退の話か、数字だけが残った要約が出てきます。どちらも、これから立ち上げる個人や少人数の参考にはなりにくい。この記事では、よく語られる失敗の進み方を6つの型に分けて、どんな状況で、どう判断して、どうなったのかという形で並べます。失敗の型は、判断そのものより、判断する前に何を確かめていなかったかで分かれます。特定の企業や個人の話ではなく、一般的に語られる進み方として書きます。後半では、実際に方向転換して続いている公開事例と見比べます。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
失敗事例は「何を作ったか」より「どの順番で決めたか」で分かれる
事例を集めていると、うまくいかなかった事業とうまくいった事業で、作ったものの種類にはそれほど差がないことに気づきます。差が出るのは順番のほうです。誰に渡すかを先に決めたか、作ってから探したか。出す日を先に決めたか、機能を決めてから日程を組んだか。
だからここでは、事例を業種や商材ではなく、進み方で分けます。読むときは、自分の企画がどの型の入口に立っているかを探してください。型を見分けられれば、結果が出るより前に分岐に気づけます。
以下の6つは、いずれも一般に語られる進み方をまとめたもので、特定の誰かの話ではありません。
作る前・作っている間に起きる4つの型
最初の4つは、まだ世に出る前に起きます。共通しているのは、確かめる相手と出す日が決まっていないまま作業だけが進む点です。
型1:作ってから相手を探す
状況。 よくあるのは、自分が欲しいと思ったものを、誰にも見せずに完成まで作りきる進み方です。作業は楽しく、毎日進んでいる実感があります。
判断。 途中で見せると否定されそうなので、ちゃんと動くようになってから見せようと決めます。これは自然な判断で、悪意も怠慢もありません。
結果。 完成してから声をかける相手を探し始め、そこで初めて「誰に説明すればいいのかわからない」ことに気づきます。作った時間が長いほど、直す気力も残っていません。
分かれ道は、完成度ではなく順番です。名前と顔が浮かぶ相手が10人いるかどうかを、作り始める前に確かめておくだけで、この型はかなり避けられます。
型2:大きい課題から入って、絞れなくなる
状況。 社会的に意味のある大きなテーマから入る進み方です。課題が大きいぶん、関係者も使い道も多く、話をすると誰もが「いいですね」と言ってくれます。
判断。 どの用途も切り捨てがたいので、全部に対応できる形を目指します。機能は増え、説明は長くなります。
結果。 誰に向けたものかが言えなくなり、宣伝も届かない。反応が薄い理由が、対象なのか、機能なのか、価格なのか、切り分けられなくなります。
「いいですね」は賛同であって、買う意思ではありません。この型を避けるには、立ち上げる対象を1つに決める工程を、コンセプトを考える前に置くことです。
型3:調べ尽くしてから動く
状況。 市場規模、競合、トレンド。資料はよく作り込まれていて、社内の説明もうまく通ります。
判断。 精度を上げてから動いたほうが失敗しない、と考えます。そのぶん、最初の一人に話しかけるのが後ろにずれます。
結果。 調べた内容は「その市場に需要があるか」の答えにはなっても、「目の前のこの人が払うか」の答えにはなりません。出したあとに、資料と現実がずれていたことがわかります。
調査が無駄という話ではありません。調べてわかることと、聞かないとわからないことを、先に分けておくと、資料づくりに使う時間が減ります。
型4:期限を決めずに機能を足す
状況。 作り始めたあと、使う人の顔を思い浮かべながら「これもあったほうがいい」を足していく進み方です。
判断。 中途半端なものを出すと評価が下がるので、もう少し整えてから出す、と決めます。この判断は毎週更新され、そのたびに公開日が一週間ずつ延びます。
結果。 出す前に体力と関心が尽きます。数ヶ月たって見返すと、足した機能の大半は確かめたい問いと関係がなかったことに気づきます。
期限が後だと機能は無限に増え、期限が先だと機能は自動的に削れます。この型でいちばん効くのは、入れるものを決める前に、人に見せる日を決めることです。
出したあとに起きる2つの型
残りの2つは、出したあとに起きます。作る前の型と違って、本人には「まだ動いている」ように見えるぶん、気づくのが遅れます。
型5:反応が小さいのに、理由を確かめないまま直す
状況。 出してはみたものの、申込も返信も想定より少ない。ただ、ゼロではない。
判断。 使いにくいからだろうと考えて、画面や文言の改修に入ります。作業としてすぐ着手できるので、手は動きます。
結果。 改修を重ねても数字が動かず、何が原因だったのかわからないまま時間が過ぎます。直すべきだったのが対象なのか、届け方なのか、そもそも問いだったのかが、後からでは切り分けられません。
出す前に合格ラインを置いておくと、この型は避けられます。合格ラインは高い低いではなく、届かなかったときに何を疑うかを決めるための線です。
型6:やめる条件がないまま、静かに止まる
状況。 悪くはないが伸びない。更新は減り、告知も止まり、けれど終了の宣言はしない。
判断。 いつか状況が変わるかもしれないので、残しておこうと決めます。維持のコストが小さいほど、この判断は通りやすい。
結果。 終わっていない事業が残り続けると、次を始める枠が空きません。失敗として学ぶこともできず、成功として数えることもできない状態になります。
先に「この日までにこの数字が出なければ畳む」と書いておくと、期限が来たときの判断が事務作業になります。条件は金額でなくても構いません。申込数、返信数、続けて使った人数といった行動の件数で十分です。
同じ状況から、変えた側の事例
型2から型5に近い状況に入ってから、方向を変えて続いている公開事例があります。見比べると、分かれ道がどこにあったかがわかります。
想定を捨てた例。 個人が運営する「サカチム」の有料版であるサカチムプラスは、当初は検索サイトの強化を想定していましたが、対話を重ねるなかで「チーム専用ホームページの質」へ方向転換し、配色を100種類実装しました。既存のサカチムには164チームが登録しています。捨てた理由は思いつきではなく、対話の結果でした。
作る順番を組み替えた例。 UPSTA JapanのApoLinkは、日程調整と決済が一体のビジネスマッチングで、テストマーケでマッチング機能の反応が良かったことを受けて、開発途中で作る順番を組み替え、それでも予定どおりリリースしました。開発2ヶ月半、リリースから1ヶ月半で会員200人弱です。
問いを1つに絞った例。 2026年8月のハッカソンで作られた記録アプリのBENLOGは、確かめる仮説を「うんちを育てるためなら、人は毎日トイレを記録するのか」の一点に置き、合格ラインとして7日後の継続率40%、30日後20%、1日平均3.5件を設定しました(これは検証前に置いた目標値で、実測値ではありません)。
身近な現場から始めた例。 1952年創業・高田馬場の一番飯店(スタッフ4名)は、紙伝票とトランシーバーで回していた注文をノーコードのオーダーシステムに移しました。ベータ版までは2週間、オーダーにかかる労力は約50%削減されたと依頼者が話しています(体感値です)。導入から約2年、今も使われています。
並べると共通点が見えます。どれも、変えるための材料を先に取りにいっていたから、変えられたという順番です。粘り強さや度胸の差ではありません。
型を早く見つけるための3つの習慣
- 相手の名前を書き出す。 名前と顔が浮かぶ相手が10人いない企画は、作るより先に相手を探す。型1と型2の入口で止められます。
- 次に見せる日を先に入れる。 他人が絡む締切なら動きません。4時間弱で形になった例もあるとおり、区切りは短いほど手応えが返ってきます。型4に効きます。
- 合格ラインを出す前に書く。 届かなかったときに何を疑うかまで書いておく。型5と型6に効きます。
3つとも、能力ではなく段取りの話です。失敗の型の多くは、能力の差ではなく、決めていない項目の数だけ増えます。
よくある質問5選
質問1この記事の型は、実在の企業の事例ですか。
6つの型は、一般に語られる進み方をまとめたもので、特定の企業や個人の事例ではありません。後半で名前を挙げているサカチムプラス、ApoLink、BENLOG、一番飯店は、いずれも公開されている取材記事やイベントレポートに基づく、方向転換や進め方の例として挙げています。
質問2複数の型に当てはまっている気がします。
珍しくありません。型は独立しているというより、前の型を通過すると次の型に入りやすい関係にあります。その場合は、いちばん手前の型から潰してください。相手が決まっていないまま期限だけ決めても、出したあとの読み方が決まらないからです。
質問3失敗事例を読むことに意味はありますか。
結果だけを読むと「気をつけよう」で終わりますが、状況と判断まで分けて読むと、自分が今どの判断の前に立っているかが見えます。どの型でも、判断そのものは合理的に見えるのが特徴です。だから結果ではなく、判断の手前で何を確かめていたかを見るほうが役に立ちます。
質問4一度失敗した企画は、やり直す価値がありますか。
止まった工程によります。相手を決めていなかったのか、期限を決めていなかったのか、合格ラインを置いていなかったのか。空欄だった項目を埋めれば、同じ題材でも進み方は変わります。逆に、埋めないまま再挑戦すると同じ型に入りやすいです。
質問5社内の新規事業でも、同じ型が起きますか。
型1から型5は同じように起きます。違いが出やすいのは型6で、社内だと終了の判断が自分だけでは下せません。その場合は、撤退条件を企画書の時点で合意しておくと、期限が来たときに感情の話になりにくくなります。
最終更新:2026年9月16日
