この記事の内容
新規事業の失敗の原因を調べると、アイデアが悪かった、タイミングが合わなかった、といった、終わったあとにしか言えない言葉が並びます。ただ、これから立ち上げる人が知りたいのは、いま自分がどこで詰まりかけているかのはずです。この記事では原因を工程ごとに分けます。決める前、作る前、作っている間、出したあと。失敗は一点で起きるのではなく、前の工程で空欄のままにした決めごとが、後の工程で表に出てきます。個人や少人数で立ち上げる前提で、それぞれの工程で起きやすい詰まり方と、先に何を決めておけば防げるのかを書きます。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
原因を「アイデアが悪かった」で終わらせない
うまくいかなかった事業を振り返るとき、いちばん出てきやすい説明が「アイデアが悪かった」です。反省としては気持ちが収まりますが、次に活かせる情報がほとんど残りません。同じ人が次に別のアイデアで始めても、同じ場所で止まることが多いからです。
原因を使える形にするには、いつ止まったかで分けるのが早い。決める前か、作る前か、作っている最中か、出したあとか。この4つは、見た目は同じ「うまくいかなかった」でも、打つ手がまったく違います。
個人や小規模での立ち上げに限ると、原因はさらに絞られます。資金が尽きて終わるより先に、自分の時間と判断力が尽きて止まるほうが圧倒的に多いからです。以下は、その前提で工程ごとに分けたものです。
工程1|決める前:対象を1つに決めていない
最初の工程で起きる失敗は、ほとんどが「絞っていない」に集約されます。
やりたいことが複数あるまま走り出すと、どの作業も少しずつ進み、どれも完成しません。本人の中では全部つながっているので、絞る必要がないように見えます。ただ外から見ると、何をやっている人なのかがわからない。相手に説明できない企画は、相手に確かめることもできません。
ハコブネの新規事業立ち上げゼミは、3ヶ月・全6回の流れの2番目に「立ち上げる対象を1つに決める」を置いています。順番としては、現状整理のすぐ次です。コンセプトも顧客もMVPも、その後ろにあります。対象を1つに決めるのは進め方の話ではなく、それ以降のすべての判断の土台になる決定です。
防ぎ方は、選ぶ基準を「儲かりそうか」から変えること。 手元にある材料(すでにいる相手、すでにある経験、毎日困っていること)から逆算すると、決めやすくなります。株式会社Walkers代表のつかさ(渡邊敦司)は、手持ちの資源から始めるエフェクチュエーションの考え方が自分の起業プロセスに近い、とXに書いています。条件が揃うのを待つほど着手が遅れ、その間ずっと迷い続けることになります。
もうひとつ、この工程でよく見るのが、競合がいるとわかった時点で候補を落としてしまう進み方です。つかさは同じくXで「検討中の新規事業に競合がいた時の反応 普通の人:やっぱやめとくか... BizDev:やったー市場がある!!」と書いています。競合の存在は、少なくとも誰かがお金を払っている証拠でもある。落とすかどうかは、その事実をどう読むかで変わります。
工程2|作る前:確かめる問いが1つに絞れていない
対象が決まっても、次の工程でまた広がります。「この事業がうまくいくか」を確かめようとしてしまうからです。これは大きすぎて、何をやっても答えが返ってきません。
作る前に決めるべきなのは、1つの問いです。2026年8月のハッカソンで作られた記録アプリのBENLOGは、確かめる仮説を「うんちを育てるためなら、人は毎日トイレを記録するのか」の一点に絞っていました。合格ラインとして7日後の継続率40%、30日後20%、1日平均3.5件を置いています(これは検証前に置いた目標値で、実測値ではありません)。
数字そのものより、形を見てください。問いが1つで、合格ラインが先にある。確かめる問いが1つに絞られていると、どの作業が効いていて、どの作業が効いていないかを判定できます。逆に問いが5つあると、毎日働いているのに手応えが返ってこない状態になります。
この工程でのもうひとつの原因は、相手を決めずに作り始めることです。作るのは楽しく、相手を探すのは気が重いので、順番が逆になります。名前と顔が浮かぶ相手が10人いない企画は、作る前に相手を探すほうが結果的に速いことが多いです。
防ぎ方は、紙一枚に3行書くこと。 何を確かめるか、いつまでにやるか、どうなったらやめるか。空欄のまま作り始めると、後の工程で必ず戻ってきます。
工程3|作っている間:期限より先に機能が増える
作り始めてからの失敗は、ほぼ一つの形しかありません。出す日を決める前に、入れる機能を決めていることです。
期限が後だと、機能は無限に増えます。増えた機能は、たいてい「あったほうがいいもの」であって、確かめたい問いとは関係がない。そのうち作ることそのものが目的になり、外に見せる日が遠ざかります。個人や少人数だと、この期間に止まらせてくれる人がいません。
短く区切れている例を並べると、期間の感覚がつかみやすくなります。高田馬場の一番飯店(1952年創業・スタッフ4名)は、紙伝票とトランシーバーの運用をノーコードのオーダーシステムに移すまで、ベータ版まで2週間でした。Walkers自社のPrompt Labは構想からベータ版公開まで3週間。山本製作所の案件は、3週間かかると見ていた開発が2週間以内に完成しています。短いのは作るのが速いからではなく、出す期限を先に置いているからです。
見通しが立たなくなる形もあります。クリスタルロードのCalmspotは、自社開発で見通しが立たなくなった状態から引き継いで開発し、当初予算200〜300万円から開発コストを50%以上削減できたと依頼者が話しています(期間は3〜4ヶ月)。途中で行き先を見失うのは、能力より、決める人と決める基準が曖昧になったときに起きやすい。
防ぎ方は、4週間以内に人に見せる日を入れること。 その日から逆算すると、入れる機能は自動的に削れます。もし4週間で出せない設計なら、作る量の問題ではなく、確かめたい問いが大きすぎるサインのことが多いです。
工程4|出したあと:反応の読み方と、やめる条件
出したあとの失敗は、静かに起きます。反応が思ったより小さく、理由がわからないまま、改修だけを続けてしまう形です。
ここで効くのは、順番を組み替える判断です。UPSTA JapanのApoLinkは、日程調整と決済が一体のビジネスマッチングで、テストマーケでマッチング機能の反応が良かったことを受けて、開発途中で作る順番を組み替え、それでも予定どおりリリースしました。開発2ヶ月半、リリースから1ヶ月半で会員200人弱です。順番を変えられたのは、変える判断の材料を先に取りにいっていたからです。
方向そのものを変える例もあります。個人が運営する「サカチム」の有料版であるサカチムプラスは、当初は検索サイトの強化を想定していましたが、対話を重ねるなかで「チーム専用ホームページの質」へ方向転換し、配色を100種類実装しました。既存のサカチムには164チームが登録しています。変えられる人と変えられない人の差は、粘り強さではなく、変える材料を持っているかどうかです。
そして、この工程でいちばん多い原因が、やめる条件を決めていないことです。やめる条件を決めていない事業は、やめられないまま静かに止まります。誰も終了を宣言しないので、次も始まりません。先に「この日までにこの数字が出なければ畳む」と書いておくと、期限が来たときの判断が事務作業になり、消耗が減ります。条件は金額でなくても構いません。申込数、返信数、続けて使った人数といった行動の件数で十分です。
いま自分がどこで止まっているかを切り分ける
原因を工程に割り当てるためのチェックです。詰まったと感じたら、上から順に見てください。
- 対象を一文で言えるか。 言えないなら工程1。まだ絞れていません。
- 確かめたい問いを1つだけ書けるか。 複数出てくるなら工程2。作るのは早すぎます。
- 次に人に見せる日が決まっているか。 決まっていないなら工程3。機能が増え続けます。
- どうなったらやめるかを書いてあるか。 書いていないなら工程4の準備ができていません。
- 今週わかったことを3つ言えるか。 言えないなら、足りないのは作業量ではなく判定基準です。
最後の項目だけ補足します。働いた時間は積み上がっているのに、わかったことが増えていないなら、それは作業量の問題ではありません。同じ時間を使うなら、判定できる形にしてから使ったほうが、原因は早く見つかります。
なお、ここまでの原因は、どれも一人で潰せるものばかりではありません。特に工程3と工程4は、他人が絡む締切があるか、途中経過を前提の説明なしに話せる相手がいるかで詰まり方が変わります。ハコブネのランチ会は月1〜2回・1回60〜90分の少人数で、2026年9月4日は7名(うち2名はメンバー以外)でした。外に置ける部分を先に外に置くのは、原因を減らすための手順です。
よくある質問5選
質問1いちばん多い失敗の原因はどれですか。
個人や少人数に限ると、工程2と工程3に集まりやすいです。確かめたい問いが絞れていないまま作り始め、期限を決めずに機能が増える、という流れです。ただしその原因は工程1で対象を1つに決めていないことに遡ることが多いので、詰まったら一段前の工程まで戻って確かめるのが早いです。
質問2アイデア自体が悪いのかどうかは、どう判断すればいいですか。
判断する前に、確かめる問いを1つに絞ってから外に出したかを見てください。問いが曖昧なまま出した結果で良し悪しを決めると、アイデアではなく出し方を評価していることになります。合格ラインを先に置いて、届かなかったときに初めて「この問いは外れていた」と言えます。
質問3競合がいるとわかった時点でやめたほうがいいですか。
一概には言えません。競合の存在は、その領域でお金が動いている証拠でもあります。判断材料になるのは有無そのものより、自分が違う形で渡せるものがあるか、最初の相手が具体的に浮かぶかのほうです。決める前の工程でそこまで確かめてから、落とすかどうかを決めてください。
質問4途中で方向転換するのは失敗ですか。
方向転換そのものは失敗ではありません。問題になるのは、変えた理由を説明できない場合です。反応を材料にして変えたのか、気分で変えたのかで、次に活かせるかが変わります。変えた日と、変えた理由になった事実は記録しておくと、あとで原因を切り分けやすくなります。
質問5会社員として社内で立ち上げる場合も、同じ分け方で使えますか。
工程の分け方は同じように使えます。違うのは、工程4のやめる条件を自分だけで決められない点です。その場合は、報告の単位を売上ではなく「今週わかったこと・消えた選択肢・次に確かめる問い」に変えると、数字が出る前でも進捗として説明しやすくなります。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
