顧客インタビューは、質問文よりも段取りで差がつきます。誰に声をかけ、いつ何分で会い、何を記録し、終わったあとに何を見るか。この四つが決まっていないと、良い質問を用意しても、話を聞いた記憶だけが残って次の判断に使えません。インタビューの目的は、話を聞くことではなく、次に何を作るか、あるいは作らないかを決めることです。 この記事では、相手の集め方から日程の組み方、当日の進行、記録の取り方、行動の事実だけを拾う分析、次の打ち手への落とし方までを順に整理します。質問文そのものは別の記事にまとめました。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
やり方は6つの工程に分かれる
顧客インタビューは、会って話すところだけが本体に見えますが、実際には前後の工程のほうが長いです。全体は次の6つに分かれます。
- 確かめたいことを一文にする(誰の、どんなときの、何を)
- 聞く相手の条件を決めて、集める
- 日程を組む(1回の長さと、期間の区切り)
- 聞く(当日の進行)
- 記録を残す
- 分析して、次の打ち手を決める
この6つのうち、最初の一文だけは会う前に終わらせておきます。一文が無いまま人に会うと、良い話は聞けても、判断に使えない状態で終わります。株式会社Walkers代表の渡邊敦司は、公開しているポストで、Who・When・What・Where・How・Whyを埋めると新規事業のコンセプトになると書いています。インタビューで埋めに行くのは、このうちWho・When・Whatの三つです。
何人に聞けば足りるかに、決まった数はありません。同じ行動の話が3人続けて出てきたら一区切りにする、という進め方を取ることが多いです。ハコブネの新規事業立ち上げゼミ(3ヶ月・全6回、最大2名)でも、現状整理から立ち上げる対象を1つに決め、コンセプトを置いたあとに顧客の工程が来て、そこからMVPを作って動かす流れになっています。
相手の集め方
経路は、大きく5つあります。どれか1つに頼ると相手が偏るので、2つ以上を並行させるほうが安全です。
- いま同じことをやっている現場に、直接頼む
- 自分のつながりから、一段外の人を紹介してもらう
- 同じテーマの人が集まる場に通う
- すでに使ってくれている人に聞く
- 出したもの(LPや告知)に反応した人に聞く
いちばん強いのは現場です。高田馬場の一番飯店(1952年創業・スタッフ4名)は、紙伝票とトランシーバーでオーダーを回していました。こういう運用は、会議室で聞くより、その場に立って見るほうが早く分かります。現場に入れるなら、質問の前に30分見せてもらうだけでも収穫があります。
紹介でたどるときは、知り合い本人ではなく、その一段外を狙います。知り合いは答えを良い方向に寄せますが、紹介された相手は寄せません。場に通う方法も有効です。ハコブネのランチ会は月1〜2回、1回60〜90分で開いていて、2026年7月15日の回は6名、9月4日の回は7名でした。9月の回の7名のうち2名はメンバー以外で、事業開発が本職の人と、社内新規事業の担当者です。会う場を先に作っておくと、聞きたくなった月に相手を探さずに済みます。
すでに使っている人に聞く経路も見落とされがちです。サカチムプラスは、個人が運営する「サカチム」の有料版で、既存のサカチムには164チームが登録しています。使っている人がいる状態で問い直せると、方向転換の判断が安全になります。出したものに反応した人に聞く形もあります。UPSTA JapanのApoLinkは、テストマーケでマッチング機能への反応が良かったため、開発の途中で作る順番を組み替えました。
日程と時間の決め方
時間の決め方には、次の型を使うことが多いです。
- 1回は30〜45分。それ以上は、相手の集中も自分の記憶も持たない
- 全体を2週間で区切る。区切らないと、聞く工程が延び続ける
- 1日に入れるのは3件まで。4件目からは前の人の話と混ざる
- 日程は相手の都合に寄せる。候補を3つ出して、1往復で決める
- 相手が現場の人なら、始業前や閉店後など、手が空く時間に合わせる
期間を先に切るのは、機能を削るときと同じ理屈です。ハコブネが2026年8月23日に東京・目白台とオンラインで開いたハッカソンでは、開発が初めての人や事業を持っていない人を含む参加者全員が、4時間弱でプロダクトを完成させて発表しました。生まれたのは5本(参加者3本+運営2本)です。少人数の回ではありますが、アンケートに答えた3名の満足度は全員10点満点で、受賞したのは開発が未経験の参加者でした。時間の枠を先に置くと、やることのほうが枠に合わせて絞られます。
相手の負担を下げる工夫も効きます。WalkersのHP Answerは、ヒアリングシートだけで打ち合わせ0回、48時間以内に初稿を3パターン出す形にしています(制作費0円・月額4,900円)。相手の時間を使わない形にできるほど、話を聞ける回数は増えます。 全部を対面の45分で取ろうとせず、事前に紙で聞けることは紙で聞いておくと、当日は行動の話だけに使えます。
当日の進行
40分で組む場合の配分は、5分・25分・5分・5分です。
最初の5分。 何を作っているかは、ここでは言いません。伝えるのは、今日聞きたいことの範囲と、録音していいかどうかだけです。最初に自分のアイデアを説明してしまうと、その日の残りは全部、相手の気づかいになります。
次の25分。 直近の行動を、順番にたどってもらいます。ここが本体です。話が一般論に流れたら「直近でそれが起きたのはいつですか」と日付に戻します。沈黙が来ても、こちらから埋めません。相手が考えている数秒を質問で潰さないだけで、出てくる情報が変わります。
残りの5分。 聞いた内容を、自分の言葉で要約して相手に返します。「つまり、月末に〇〇をして、そこで毎回止まっている、ということで合っていますか」と確認すると、ずれていた部分がその場で直ります。
最後の5分。 次につながる一手をお願いします。同じ立場の人を1人紹介してもらう、形になったときに見てもらう約束をする、のどちらかです。
可能なら2人で入り、聞く人と書く人を分けます。1人で行く場合は、メモを最小限にして録音に寄せたほうが、会話が途切れません。
記録の取り方
記録は、当日より翌日のほうが重要になります。残し方の型は次のとおりです。
- 録音は、必ず許可を取ってから始める
- その場のメモは、相手が言った言葉のまま書く。要約しない
- 数字と日付には、その場で印を付ける
- 自分の解釈は、事実とは別の欄に分けて書く
- 24時間以内に、1人分を1ページにまとめる
要約した瞬間に、事実は解釈に変わります。 相手が「うまく回っていなくて」と言ったのを「非効率」と書き換えてしまうと、あとで読み返したときに、何が起きていたのかが消えています。残すべきなのは、語学学校の台湾トークの「管理業務に月30時間」、療育支援のOne Companyの「連絡帳の作成に1日約1時間」、株式会社マックスの「求人更新が通常1週間(最短3日)から30分〜1時間になった」のような、数字と単位が付いた形です。この形で残っている記録は、半年後でも判断に使えます。
分析は、行動の事実だけを拾う
分析は、3段階でやると迷いません。
1. 発言を、事実と意見に分ける
2. 事実を、行動・頻度・金額・時間の4つに並べ替える
3. 3人以上に共通して出てきたものだけを残す
「誰が何を言ったか」ではなく、「誰が何をしたか」を並べます。 「便利そう」「あったら使うかも」「値段次第ですね」は、全部意見の側です。捨てて構いません。残すのは、前回いつやったか、月に何回か、いまいくら払っているか、何分かかっているか、何を試して何をやめたか。この5種類だけでも、次の判断には足ります。
3人以上で一致しない場合は、結論を出す前に、聞いた相手の条件を見直してください。答えがばらけるのは、多くの場合、Whoが1種類に絞れていないからです。相手の属性で並べ直すと、片方のグループだけ同じ行動が出ていることがあります。
そして、最初の見立てが外れることは珍しくありません。サカチムプラスは、当初は検索サイトとしての機能を強化する方向が想定されていましたが、対話を重ねるなかで、価値があるのは検索ではなく「チーム専用ホームページの質」のほうだという結論になり、方向が変わりました。結果として配色は100種類が実装されています。仮説が外れたと分かるのは、インタビューがうまくいった状態です。 外れたと分かる前に作り込んでいたら、直す対象が増えるだけでした。
次の打ち手に落とす
出口は3つしかありません。進むか、変えるか、止めるかです。
進む。 確かめる仮説を一文にして、合格ラインを数値で先に置いて、いちばん軽い道具で確かめます。ハコブネのハッカソンで生まれたBENLOGは、7日後の継続率40%、30日後20%、1日平均3.5件という合格ラインを置いていました。これは検証の前に置いた目標値で、実測の数字ではありません。数字そのものより、出す前に「どこまで届いたら続けるか」を決めてあることが要点です。
変える。 相手を変えるのか、提供するものを変えるのかを、はっきり分けます。ApoLinkのように、作るものは変えず、作る順番だけを組み替える形もあります(開発2ヶ月半、リリースから1ヶ月半で会員200人弱)。
止める。 この困りごとでは動かない、と決めるのも打ち手です。止めた判断は、次のテーマを選ぶときの材料として残ります。
どの出口を選ぶにしても、決める日を先に置いてください。最後のインタビューから3日以内が目安です。聞き終わってから決めるまでの間が空くほど、印象だけが残って事実が薄れます。
自分の判断に外の目を1つ入れておくと、精度が上がります。ハコブネでは10分の個別メンタリングや定期報告会を回していて、1DAY新規事業立ち上げイベント(会員は参加費無料、一般3,000円。次回は2026年9月19日・10月18日)では、1日のなかで立ち上げの工程を通します。
よくある質問5選
質問1何人に聞けば十分ですか?
決まった数はありません。同じ行動の話が3人続けて出てきたら一区切りにする、という進め方を取ることが多いです。逆に、聞くたびに違う話が出るうちは、聞く相手の条件が絞れていない可能性のほうが高いです。
質問2相手に謝礼は必要ですか?
経路によります。紹介や現場のつながりで会う場合は不要なことが多く、条件を指定して集める場合は用意することが多いです。どちらの場合も、最初に「導入の相談ではない」と伝えておくと、相手の答えが営業への応対にならずに済みます。
質問3自分のアイデアは、いつ説明すればいいですか?
最後の5分です。先に説明すると、その後の答えがすべてそのアイデアへの感想になります。どうしても見せたい場合は、行動を聞き終えたあとに出して、感想ではなく「これを使うために、代わりに何をやめる必要があるか」を聞きます。
質問4オンラインと対面、どちらがいいですか?
現場の作業について聞くなら、対面で実物を見せてもらうほうが早いです。オンラインでも、画面を共有してもらえば近い情報は取れます。数をこなす段階では、日程が合いやすいオンラインのほうが進みます。
質問5社内の新規事業でも、同じやり方でいいですか?
基本は同じです。ただ社内向けの場合、使う人と決める人が別なので、両方に聞く必要があります。どちらか一方だけに聞くと、使われるのに買われない、または買われるのに使われない形になりがちです。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
