この記事の内容
起業までの手順を調べると、開業届や税務の話が先に出てきます。ただ、手続きは要件を満たせば必ず終わるのに対して、顧客と提供内容と価格は、自分で決めて外で確かめないと永遠に終わりません。詰まるのはほぼ後者のほうです。この記事では、起業までの手順を時系列のチェックリストとして並べます。手続きの具体的な書き方や税務の判断には踏み込まず、そこは専門家に確認する前提で、事業の側の準備に重心を置いて整理します。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
手順を「事業」と「手続き」の2本に分けて並べる
起業の準備は、性質の違う2本の線が並走します。混ぜて1本のリストにすると、進めやすい手続きばかりが片付いて、事業のほうが手つかずで残ります。
- 事業の線:顧客を決める/提供内容を決める/価格を決める/外で確かめる/最初の売上を立てる
- 手続きの線:開業の届出、屋号や口座、会計の準備、社会保険、契約書のひな形
この記事で詳しく扱うのは事業の線です。手続きの線は、要件も扱いも人によって変わるため、開業届の書き方、青色申告の可否、社会保険の扱い、法人化の判断などは、税理士・社会保険労務士など専門家に必ず確認してください。この記事は一般的な進め方の整理であり、税務・労務・法務の助言ではありません。
【第1段階】対象をひとつに決める
やりたいことが複数あるうちは、どれも進みません。最初にやるのは、立ち上げる対象をひとつに選ぶことです。ハコブネの新規事業立ち上げゼミ(3ヶ月・全6回・最大2名)も、現状整理のあとに対象を1つに決めてから、コンセプト、顧客、MVPを作って動かす、改善、リリース、集客設計と進みます。
選ぶときの手がかりは、市場の大きさより、自分の手持ちです。つかさ(渡邊敦司)は、手持ちの資源から始めるエフェクチュエーションの考え方が自分の起業プロセスに近い、と公開のXで書いています。決め手がないときは、いちばん早く1人目に会える案を選んでください。
この段階で書き出すのは次の4つです。
- 誰の、どんな場面の話か
- その人はいま、どうやってしのいでいるか
- 自分が渡せるものは何か
- 何が起きたら「当たり」と判断するか
【第2段階】顧客に会う
作る前に会うほうが、限られた時間では効きます。会う相手は、想定した「誰」に当てはまる実在の人です。一般論を聞くのではなく、直近で実際にどうしたかを聞きます。
参考になる言い方の目安があります。台湾トーク(生徒約370名・講師約70名)は管理業務に月30時間かかっていた、One Company(療育支援)は連絡帳の作成に1日約1時間かかっていた、一番飯店(1952年創業・高田馬場・スタッフ4名)は紙伝票とトランシーバーで注文を回していた——いずれも取材の中で当事者が具体的に言えていた事実です。相手が数字や手順で言える困りごとは、すでにお金や時間を払って対処している困りごとです。
会えないときは、案の選び方に戻ります。自分が連絡先を知らない相手を対象に置いていると、検証はいつまでも始まりません。
【第3段階】提供内容を決める
聞いた話をもとに、渡すものを決めます。ここで作り込みすぎないのが要点です。確かめたい問いが1つ検証できる最小限まで削ってください。
Walkers自社のPrompt Labは構想からベータ版公開まで3週間、HP Answerはヒアリングシートだけで打ち合わせ0回・48時間以内に初稿3パターンという形にしています。ハッカソン(2026年8月23日・東京 目白台とオンライン、少人数の回)では、開発が初めての人や事業を持っていない人を含む参加者全員が、4時間弱でプロダクトを完成させて発表し、5本(参加者3本・運営2本)が生まれました。アンケートに答えた3名の満足度は全員10点満点でした。最初の形は、数週間どころか数時間で作れることもあります。
サービスの形が受託なのか、伴走なのか、講座なのか、自社サービスなのかで、その後の時間の使い方が変わります。形の選び方は別記事に整理しています。
【第4段階】価格を決める
価格は最後に決めるものではなく、作る前に仮で置いておくものです。値段が決まっていないと、どこまで作るかも決まらないからです。
決め方は、原価の積み上げより、相手が今払っているものとの比較が実務的です。時間なのか、他社のサービス代なのか、人を増やす費用なのかを見ます。無料で配っている間は、感想しか返ってきません。金額をつけて初めて、需要かどうかがわかります。
参考として、ハコブネ自体は月額4,980円(税込)、入会金・解約金0円です。HP Answerは制作費0円・月額4,900円という形をとっています。続く形にしたいなら、一度きりの金額より、毎月成立する金額で考えるほうが設計しやすいです。
【第5段階】外で確かめ、最初の売上まで持っていく
決めた価格で、決めた相手に出します。見る数字は1つに絞ってください。BENLOG(ハッカソンで運営が作った記録アプリ)は、確かめる仮説を「うんちを育てるためなら、人は毎日トイレを記録するのか」の一点に置き、7日後の継続率40%・30日後20%・1日平均3.5件を合格ラインとしました。これは検証前に置いた目標値であって実測ではありませんが、線を先に引いておくという点で参考になります。
途中で気づいたことは、計画を守るためではなく、順番を変えるために使います。ApoLink(UPSTA Japan)は、テストマーケでマッチング機能の反応が良かったため、開発途中で作る順番を組み替え、予定どおりリリースしました(開発2ヶ月半、リリース1ヶ月半で会員200人弱)。サカチムプラスは、当初想定していた検索サイトの強化から、対話を重ねて「チーム専用ホームページの質」へ方向転換しています。
そして、最初の1件は、広告や集客の仕組みより先に、知っている人から取れることが多いです。ツナガル(高福合同会社)は会員システムをLINE公式アカウントと連携して1ヶ月で開発し、開始から約2ヶ月で会員12名・LINE約60名でした。最初の数字は小さくて構いません。小さくても、次に何を直すかは決められます。
売上が立ってから集客の設計に入ります。順番が逆になると、まだ売れるかわからないものに集客の費用と時間を投じることになります。
【並走】手続きとお金の準備
事業の線を進めながら、手続きの線も並走させます。ここは自己判断を避けてください。
- 開業の届出、屋号、事業用の口座、会計の方法 → 税理士に確認
- 人を雇う可能性、社会保険の扱い → 社会保険労務士に確認
- 契約書、業務委託の条件、知的財産の扱い → 弁護士など専門家に確認
- 勤務先がある場合の就業規則・競業避止 → 勤務先の規定を自分で読み、必要に応じて専門家に確認
補助金を検討する場合も同様です。Walkersでは補助金申請の支援を行っており、支援総額5億1807万円、相談300件以上、累計支援121件という実績がありますが、制度名・上限額・要件は毎年変わるため、この記事では具体的な制度に触れません。採択されるとも限りません。最新の公募要領を確認し、必要に応じて支援機関や専門家に相談してください。
よくある質問6選
質問1手続きと事業、どちらから始めるべきですか。
事業の線からです。手続きは要件を満たせば終わりますが、顧客と価格は外で確かめないと決まりません。ただし、勤務先がある場合の就業規則の確認だけは、着手前に済ませてください。
質問2開業届はいつ出せばいいですか。
時期や要否は状況によって変わるため、この記事では判断を示しません。税理士など専門家に確認してください。事業の準備と並行して相談しておくと、あとから慌てずに済みます。
質問3起業までにどれくらいの期間がかかりますか。
一律の目安はありません。この記事で挙げた事例では、ベータ版まで2週間、構想からベータ公開まで3週間、開発2ヶ月半といった幅があり、規模によって変わります。期間を決めてから中身を削るほうが、進みは早くなります。
質問4資金はどのくらい必要ですか。
対象と形によって変わるため、金額の目安は出せません。額から決めるより、確かめたいことに必要な分だけ用意する順番のほうが無駄が出にくいです。生活費と事業資金は分けて管理してください。
質問5法人にするか個人事業主にするかは、いつ決めますか。
取引先の要件や税務上の扱いが絡むため、ここでは判断を示しません。税理士に確認してください。事業の形と売上の見込みが見えてからのほうが、相談もしやすくなります。
質問6一人で進めるのが不安です。
進め方の相談先を持っておくと詰まりにくくなります。ハコブネではDiscord、10分の個別メンタリング、定期報告会、1DAY新規事業立ち上げイベント(会員は参加費無料、一般3,000円/次回は2026年9月19日・10月18日)といった場を用意しています。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
