この記事の内容
事業開発のやり方で迷うとき、たいていは能力が足りないのではなく、順番が決まっていないだけです。市場の話と、誰に売るかの話と、いくらにするかの話を同時に考えると、どれも決まらないまま時間が過ぎます。工程を一本の線にして、いま自分がどこにいるかを言えるようにすると、それだけで手が止まる回数が減ります。 この記事では、市場を見る、相手を決める、提供を決める、検証する、販路を決める、改善する、の順に、実務の手順として書きます。事業開発とは何かという定義は別の記事に譲り、ここでは進め方だけを扱います。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
順番を先に決める。迷いの多くは工程の混線
はじめに全体像を置きます。株式会社Walkersが公開している新規事業開発支援の進め方は、ベンチマーク調査、コンセプト、ビジュアル、LP・資料、小規模な広告テスト、MVP開発の6ステップです。この記事で扱う6工程は、これに販路と改善を重ねたものだと思ってください。
順番に意味があるのは、後ろに行くほど費やすものが増えるからです。調べるのは時間だけで済みますが、作るのはお金と人が要ります。確かめずに作るという判断は、いちばん高い工程から始めるという意味になります。
期間の目安は、規模によってかなり変わります。Walkers自社のPrompt Labは構想からベータ版公開まで3週間でした。ハコブネが2026年8月23日に東京・目白台とオンラインで開いたハッカソンでは、参加者全員が4時間弱でプロダクトを完成させて発表しています(生まれたのは5本。参加者3本+運営2本の少人数の回です)。短い期間でも、工程そのものは省略されていません。 一つひとつが薄くなっているだけです。
1. 市場を見る(どこで戦うかを決める)
最初にやるのは、自分が入ろうとしている場所に、すでに誰が何をいくらでやっているかを見ることです。ベンチマーク調査と呼ばれる工程で、見るのは3つに絞ると進みます。似たことをやっている先行者、その価格、そこで言われている不満です。
不満は、レビュー、SNS、掲示板、解約理由を書いた記事などに落ちています。競合がいることは撤退の理由ではなく、お金が動いている証拠のほうです。 株式会社Walkers代表の渡邊敦司も、検討中の新規事業に競合がいたときの反応として、普通の人は「やっぱやめとくか」となるがBizDevは「やったー市場がある」となる、というポストを公開しています。
この工程で気をつけるのは、調べ続けてしまうことです。資料が増えても決まることは増えません。先行者を5つ挙げて、それぞれの価格と、一番よく言われている不満を一行ずつ書いたら、次に進んでいい合図だと考えてください。
2. 相手を決める(一人に絞る)
次に、誰の困りごとを扱うかを決めます。ここで「30代の経営者」のような幅で置くと、あとの全部がぼやけます。相手は属性ではなく、具体的な状況で決めたほうが、提供が決まりやすいです。
絞り方の目安を挙げます。
- その人が、いま何で代用しているかを言える(紙、Excel、人の記憶、我慢、など)
- 困っている場面が、時刻と場所まで浮かぶ
- お金を払う人と、実際に使う人が、同じか違うかを言える
- 自分が、その人に会える手段を持っている
高田馬場の一番飯店(1952年創業・スタッフ4名)は、紙伝票とトランシーバーでの運用をノーコードのオーダーシステムに置き換えました。ベータ版までは2週間、オーダーにかかる労力は約50%削減されたと依頼者は話しています(依頼者の体感)。導入から約2年です。「紙伝票とトランシーバー」まで具体的だったから、2週間で形にできました。
相手が決まらないうちは、機能の議論に入らないほうがいいです。機能は、相手が決まっていれば半分は自動的に決まります。
3. 提供を決める(コンセプトと、見える形にする)
相手が決まったら、渡すものと、対価の取り方を決めます。渡邊敦司は、Who・When・What・Where・How・Whyを埋めると新規事業のコンセプトになると書いています。まずはこの6つを、一行ずつ埋めてみてください。
埋めたら、見える形にします。Walkersの6ステップでビジュアル、LP・資料が広告テストの前に置かれているのは、見せるものが無いと反応が測れないからです。文章で説明しないと伝わらない提供は、まだ提供の形になっていません。
対価の取り方も、この段階で仮に置きます。Walkers自社のHP Answerは、ヒアリングシートだけで打ち合わせ0回、48時間以内に初稿3パターンという形にしたうえで、制作費0円・月額4,900円という取り方を選んでいます。何にお金を払ってもらうのかを先に置いておくと、あとの検証で見る数字が決まります。
4. 検証する(合格ラインを先に置く)
ここがいちばん飛ばされやすい工程です。検証は、感想を集める作業ではありません。確かめる問いを一つに絞り、合格ラインを数字で先に置いて、いちばん軽い道具で測るところまでが一組です。
ハコブネのハッカソンで運営が作った記録アプリのBENLOGは、確かめる仮説を「うんちを育てるためなら、人は毎日トイレを記録するのか」の一点に絞りました。合格ラインは、7日後の継続率40%、30日後20%、1日平均3.5件です。これは検証前に置いた目標値で、実測値ではありません。それでも、この数字があるから、結果が出たときに続けるかやめるかを言い合えます。
軽い道具から順に使います。人に会って聞く、LPを出して反応を見る、手作業で提供してみる、最小の形を作って動かす。Walkersの6ステップで小規模な広告テストがMVP開発の前にあるのも、同じ理由です。先に軽い道具で落ちるものは、作っても落ちます。
5. 販路を決める(最初の10人をどこから連れてくるか)
出す前に、最初の利用者をどこから連れてくるかを決めておきます。ここが空欄のまま完成させると、出した日に配る先が無いという状態になります。
すでにある接点を使う手があります。高福合同会社のツナガルは、会員システムをLINE公式アカウントと連携して1ヶ月で開発し、開始から約2ヶ月で会員12名・LINE約60名という立ち上がりでした。新しい集客の仕組みを作るより、相手がすでに開いている場所に置くほうが、最初の数人は早いです。
反応を見て、作る順番を変えることもあります。UPSTA JapanのApoLinkは、テストマーケでマッチング機能の反応が良かったため、開発途中で作る順番を組み替え、それでも予定どおりリリースしました。開発は2ヶ月半、リリースから1ヶ月半で会員は200人弱です。販路の工程で見た反応が、前の工程に戻って効いた例です。
6. 改善する(続けるか、やめるかを決める)
出したあとにやることは二つです。置いた合格ラインと実際を比べること、そして、比べた結果でやることを一つ変えることです。両方をやらないと、数字を眺めるだけの時間になります。
作るものが変わることもあります。個人が運営する「サカチム」の有料版であるサカチムプラスは、当初は検索サイトの強化を想定していましたが、対話を重ねるなかで「チーム専用ホームページの質」に方向を変え、100種類の配色を実装しました(既存のサカチムには164チームが登録)。方向を変えた判断は、工程を戻ったのではなく、相手を決め直したという意味です。
自分ひとりで判断の材料を集め続けるのは、思ったより負荷が高いです。ハコブネの新規事業立ち上げゼミは3ヶ月・全6回の個別伴走で、現状整理、立ち上げる対象を1つに決める、コンセプト、顧客、MVPを作って動かす、改善、リリース、集客設計という流れで進みます(最大2名)。この記事の6工程と、見ている順番はほとんど同じです。
よくある質問5選
質問1工程は必ずこの順番で進めないといけませんか?
一方通行で進むことは、ほとんどありません。検証の結果で相手を決め直したり、販路を見てから提供を変えたりします。大事なのは順番を守ることよりも、いま自分がどの工程にいるかを言えることです。
質問2市場調査はどのくらいの時間をかけるべきですか?
先行者を5つ挙げて、価格と主な不満を一行ずつ書けたら次に進んでいい、という目安が使いやすいです。調べる時間は増やせばいくらでも増やせますが、決まることは増えません。
質問3検証の合格ラインは、どうやって決めればいいですか?
最初は根拠の弱い数字で構いません。置いた数字を後から動かすことも普通にあります。重要なのは、結果を見る前に置いておくことで、見たあとに置くと、都合のいい解釈がいくらでもできてしまいます。
質問4一人でやる場合、どの工程を外に出せますか?
作る工程は外に出しやすく、相手を決める工程と合格ラインを置く工程は外に出しにくいです。何が面倒かを言葉にできるのは、その現場を知っている人だけなので、そこは自分で持っておくほうが進みます。
質問5途中で方向が変わるのは、やり直しですか?
やり直しというより、確かめた結果が出たという状態です。変わったこと自体より、何を見て変えたのかを記録しているかどうかが、次の判断に効きます。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
