この記事の内容
事業開発のキャリアパスは、職種名で考えると見通しが立ちません。同じ「事業開発」でも、会社によって任される工程がまるで違うからです。市場を調べる仕事も、提携先を開拓する仕事も、新しいサービスを立ち上げて最初の顧客まで持っていく仕事も、すべて事業開発と呼ばれます。この記事では、肩書きではなく「どの工程を通したか」でキャリアを見る考え方を整理し、経験の積み方、実績の残し方、そして3つの進み先(社内で立ち上げる/独立して自分の事業をやる/支援側に回る)をまとめます。想定読者は、事業開発の経験をこれから積む人と、次にどこへ進むかを考えている人です。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
キャリアは「肩書き」ではなく「通した工程」で見る
事業開発の経歴が伝わりにくいのは、肩書きが実態を示さないからです。「新規事業担当」と書いても、調査だけをしていたのか、顧客に会っていたのか、値付けまで決めていたのかは分かりません。
代わりに使えるのが、工程で並べる見方です。新規事業の立ち上げは、おおむね次の順で進みます。
- 誰の、どの困りごとを扱うかを決める
- その人に会って、いま何をしているかを聞く
- 確かめることを1つに絞り、合格ラインを先に置く
- 小さく作って、実際に使ってもらう
- 結果を見て、続けるか、変えるか、やめるかを決める
- 売り方と集客の形を決める
自分がどこまでを自分の判断で通したのか。これが事業開発の経歴の実体です。全部を通した経験が1回あるほうが、一部の工程を何度も繰り返した経験より説明しやすいことが多いです。逆に、ある工程だけを深く担当してきた人は、そこが強みとして通ります。どちらにしても、工程の言葉で書けると相手に伝わります。
なお、この記事では転職先の紹介や年収の目安は扱いません。条件は会社と役割で大きく変わるうえ、確かめられない数字を並べても判断材料になりません。扱うのは、自分の側で積める材料の話だけです。
経験の積み方:「一度通す」機会をどこで作るか
事業開発の経験は、担当年数では増えません。増えるのは、決めた回数です。とはいえ、会社の中で決められる立場に回るのを待っていると、機会が来ないこともあります。積み方は、おおむね3つに分かれます。
本業の中で立ち上げる。一番説明しやすい実績になります。予算も人員も自分の裁量では決まらない条件で前に進めた記録は、独立しても支援側に回っても、そのまま通じることが多いからです。
自分で小さく1つ動かす。売るものを決めて、人に聞いて、作って、1件売る。ここまでを通すと、各工程を自分の言葉で説明できるようになります。規模は小さくてかまいません。参考として、ハコブネが2026年8月23日に開いたハッカソン(東京・目白台+オンライン)では、開発が初めての人や事業を持っていない人を含む参加者全員が4時間弱でプロダクトを完成させて発表し、生まれたのは5本でした(参加者3本+運営2本。少人数の回です)。この回で運営が作ったBENLOGという記録アプリは、確かめる仮説を「うんちを育てるためなら、人は毎日トイレを記録するのか」の一点に絞り、合格ラインとして7日後の継続率40%・30日後20%・1日平均3.5件を先に置いています。これは検証前に置いた目標値で、実測ではありません。短い時間でも「何を確かめると決めたか」を残せば、経験として説明できる形になります。
他の人の事業に検証の側から入る。自分の事業も社内の機会もない場合の入り方です。顧客インタビューの設計を手伝う、仮説を一緒に整理する、結果をまとめる。自分の資金を使わずに工程を経験できます。
実績は、数字・判断・関わった範囲の3つで残す
ここからが本題です。事業開発の成果は、そのままでは外に伝わりません。残し方を決めておかないと、通した経験が手元に残らないまま次に進むことになります。残すのは、数字・判断・関わった範囲の3つで足ります。
①数字は、動く前と後を両方残す
数字については、結果の数字だけでなく、動く前の数字を必ず一緒に残すのが要点です。「会員200人」だけでは大きいのか小さいのか分かりませんが、「開発2ヶ月半、リリース1ヶ月半で会員200人弱」なら、どのくらいの速さかが分かります(これは日程調整と決済が一体のビジネスマッチングApoLinkの例です)。
残す項目は、次の4つで足ります。
- 期間(いつからいつまで、何ヶ月)
- 前の状態(着手時点の数字、やり方、かかっていた時間)
- 後の状態(同じ物差しで測った数字)
- 何を変えた結果なのか
社外に出せない数字は、手元に残したうえで、外に出すときは規模感まで抽象化します。「数百名規模の教室で、月30時間かかっていた管理業務を対象にした」のように書けば、多くの場合は説明できる形になります。線引きは勤務先の規程によるので、必ず確認してください。
②判断は、選ばなかった選択肢ごと残す
事業開発で評価されるのは、結果そのものより判断の質であることが多いです。決めた結果だけを残すと、運と実力の区別がつかなくなります。残すのは、決めた日、迷った選択肢、選んだ理由、そのとき見ていた材料の4点です。
とくに価値があるのは、途中で方向を変えた判断です。参考として、ApoLinkはテストマーケでマッチング機能の反応が良かったため、開発途中で作る順番を組み替え、予定どおりリリースしています。また、個人が運営するサカチムの有料版であるサカチムプラスは、当初は検索サイトの強化を想定していたものの、対話を重ねて「チーム専用ホームページの質」へ方向転換しました。どちらも、何を見て変えたのかがはっきりしている例です。
方向を変えた判断は、面接でも提案でも一番聞かれる部分になりやすいです。変えた理由を説明できる人は、次の現場でも同じことができると見なされます。
③関わった範囲を、正確に書く
最後が範囲です。ここを大きく書くと、あとで自分が苦しくなります。「関わった」と「決めた」と「実行した」を分けて書く。これだけで、伝わり方がかなり変わります。
書き方としては、次の3つを分けます。
- 自分が決めたこと(自分の判断で通ったもの)
- 自分が動かしたこと(実際に手を動かした範囲)
- 関わっただけのこと(会議に出た、意見を出した)
チームで進めた仕事なら、人数と自分の役割も添えます。正確に書いたほうが、結果的に信用されます。相手も同じ工程を通ってきた人であることが多く、範囲が大きすぎる話はすぐ分かるからです。
進み先①:社内で立ち上げ続ける
1つ目は、会社の中で新しい事業を立ち上げ続ける方向です。組織の資源(既存顧客、ブランド、資金、人)を使えるのが最大の利点で、一人では触れない規模の事業を扱えます。
必要になるのは、事業を作る力より、既存事業とぶつかる部分を調整する力であることが多いです。決裁の順番を設計する、関係する部署を巻き込む、撤退の基準を先に合意しておく。この工程を通した経験は、外に出ても評価されます。
進み先②:独立して、自分の事業をやる
2つ目は、自分の事業を持つ方向です。決める速さは上がりますが、資源は自分で用意することになります。事業開発の経験がある人でも、独立後に最初に詰まるのは集客と値付けであることが多いです。会社にいるときは、その2つが既にある状態で立ち上げていたからです。
この方向に進むなら、在職中のうちに1件でも自分の名前で売った経験を持っておくと、始まりの重さが変わります。金額を決めて受け取ると、相手の要求も自分の言い訳も変わります。一人で回しきる形をどう選ぶかは一人起業のビジネスモデル5つの型にまとめています。
進み先③:支援側に回る
3つ目は、他社や他の人の立ち上げを支援する方向です。受託、伴走、共同での立ち上げなど形はいくつかあります。自分で全部を背負わずに、立ち上げの工程に何度も関われるのが利点です。
支援側で効くのは、事業の知識よりも、要件が固まっていない状態を扱えることです。参考として、ハコブネの監修者である池田龍一(株式会社Walkers 取締役)は、100件以上のシステム開発に携わり、要件が固まっていない案件や他社から引き継いだ開発の立て直しを得意としています。Walkersでは、自社開発で見通しが立たなくなった状態から引き継いだCalmspot(クリスタルロード)の例があり、当初予算200〜300万円から開発コスト50%以上削減(依頼者談)、期間は3〜4ヶ月でした。支援側の価値は、正解を出すことより、決まっていない状態を進められる形に整えるところにあります。
なお、3つの進み先は一方通行ではありません。社内で立ち上げてから支援側に回る人も、独立してから組織に戻る人もいます。どこへ進むにしても効くのは、ここまで書いた3つの残し方です。
よくある質問5選
質問1事業開発の経験は、何年くらいで一人前と言えますか
年数ではなく、通した工程の数で見るほうが実態に合います。誰に売るかを決め、顧客に会い、作って、結果を見て方向を決めるところまでを一度通した経験が1回あるかどうかが、まず最初の区切りになります。
質問2営業や企画の経験は、事業開発に活きますか
活きる部分は多いです。営業は顧客の言葉と断られ方を知っていること、企画は材料を整理して人に通す経験が強みになります。足りないことが多いのは、売るものと売り方そのものを決める工程なので、そこを1回通す機会を作ると経歴がつながります。
質問3社内の実績は、外でどこまで話せますか
社内の数字・固有名詞・非公開の資料はそのまま出せないのが一般的です。出せるのは、進め方と自分の判断を抽象化した部分です。線引きは勤務先ごとに違うので、規程を確認し、迷う部分は専門家に相談してください。
質問4失敗した事業の経験は、実績になりますか
なります。事業開発は続けるか変えるかやめるかを決める仕事なので、やめた判断も材料になります。残しておくべきなのは、何を確かめようとして、どの結果を見て、どの基準でやめたのかです。基準が先に置かれていたかどうかで、伝わり方が変わります。
質問5独立と支援側、どちらを先に経験するべきですか
順番に正解はありません。自分の事業で全工程を持ちたいなら独立、立ち上げの工程に数多く関わって型を増やしたいなら支援側が向きます。どちらも、通した工程と判断を記録に残しておけば、後からもう一方に移りやすくなります。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
