この記事の内容
新規事業のアイデアは、数を並べただけでは動き出しません。必要なのは、並んだ一覧の中から、自分が今週確かめに行ける一つを選び出すことです。アイデアの良し悪しは、思いついた時点では決まりません。誰の何が面倒なのかを言えて、それを確かめに行けるかどうかで決まります。 この記事では、個人や少人数でも始められる規模に限って、10の分野に100個のアイデアを並べます。並べる前に選び方の軸を4つ置き、最後に100個から3つに絞るところまでを書きます。眺めて終わりではなく、今日3つに印を付けて閉じられる形を目指しています。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
アイデアを選ぶ4つの軸
一覧を先に見ると、目に付いたものを選んでしまいます。そうならないように、軸を先に置きます。100個から選ぶという作業は、良さそうなものを拾う作業ではなく、当てはまらないものを落としていく作業です。
すでに困っている人が見えるか。 一番強い軸です。「こういう人が困っているはずだ」ではなく、「あの人が、あの作業で困っている」と顔が浮かぶかを見ます。浮かべば、今週その人に会いに行けます。浮かばないなら、相手を探すところから始まるので、最初の一歩が数週間先に延びます。
自分が現場を知っているか。 知らない分野でも始められますが、外れたときの直しどころが分かりません。現場を知っていると、聞いた話のどこが本音でどこが建前かの見当が付きます。働いた業界、家族の仕事、通っている店、関わっている集まり。手元の接点から選ぶほうが速く回ります。
確かめやすいか。 確かめるのに数ヶ月かかるものは、いま選ばないほうが無難です。すでに手作業でやっている人がいて、それを横で見せてもらえるなら、数日で見当が付きます。
続けられるか。 当たっても外れても、しばらく同じ相手と付き合うことになります。話していて苦にならない相手かを、選ぶ段階で見ておきます。
以下の100個は、この4つで見比べられるように、機能ではなく「誰の・何が面倒か」の形で書いています。業種はあくまで例なので、自分の周りの人に置き換えながら読んでください。
士業・専門職の業務のアイデア10個
一人か数名で回している事務所は、書類の種類と期限が多いわりに、管理がその人の記憶に載っている場面が多い分野です。
- 相続を扱う司法書士:依頼者ごとに違う必要書類の一覧を、毎回ゼロから作り直している
- 一人でやっている税理士:顧問先から届くレシート写真の向きと明るさを直す作業に、毎月まとまった時間を使っている
- 社労士:顧問先からの入退社の連絡がメールとチャットと電話に散らばり、どれが最新か分からなくなる
- 行政書士:許認可の種類ごとに違う「次に出す書類」を、担当者の記憶だけで管理している
- 個人事務所の弁護士:相談を受ける前に聞いておきたいことを、毎回メールで往復している
- 土地家屋調査士:現地で撮った写真を、あとから案件ごとに振り分けるのに時間がかかる
- 中小企業診断士:支援先ごとの進捗メモが文書ファイルに散在し、前回何を宿題にしたか探せない
- 弁理士事務所の事務担当:期限の管理を表計算でやっていて、更新漏れを人の目だけで防いでいる
- 一人で動く保険代理店:契約更新の案内を、名簿を見ながら手作業で送っている
- 税理士に依頼している小さな会社:どこまで質問していいのかの線引きが分からず、聞くのを我慢している
店舗と予約のアイデア10個
店舗は、困りごとが目に見える形で置いてあるのが強みです。紙、ホワイトボード、店主のメモ帳。そこに書いてあることが、そのまま面倒の一覧になります。
- 個人経営の美容室:前回の施術内容を紙のカルテから探してから、当日の接客を始めている
- 小さな飲食店:紙の伝票と口頭での伝達に頼っていて、注文がキッチンに正しく届かないことがある
- 整体院:キャンセルが出た枠を埋める連絡を、その都度一人ずつ送っている
- カフェの店主:日替わりの告知を、SNSと掲載サイトと店頭の黒板に三度書いている
- ネイルサロン:常連客の好みや爪の状態を、担当者の頭の中だけで覚えている
- 個人の飲食店:仕入れ値が上がったときに、どのメニューが赤字になったのか分からない
- 小規模な宿:予約サイトごとの空室情報を、サイトの数だけ手で入れ直している
- パーソナルジム:回数券の残り数を紙で管理していて、会員との数え違いが起きる
- 町の花屋:法人からの定期注文の内容を、担当者ごとのメモで管理している
- 教室型の個人店:体験に来た人へのフォロー連絡が、忙しい日は丸ごと抜ける
採用と人材のアイデア10個
採用は、欠員が出た時期に困りごとが集中するので、聞きに行く時期を読みやすい分野です。すでにお金を払って解決しようとしている相手が多いのも特徴です。
- 従業員10名以下の会社:求人原稿の更新を社外に頼んでいて、1か所直すのに数日かかる
- 現場が中心の会社:応募者への折り返しが遅れ、連絡が付く前に他社で決まってしまう
- 外国人を採用したい会社:同じ求人を複数の言語で出したいが、翻訳の手配だけで止まっている
- 採用を兼務している総務担当:面接日程の調整メールを、候補者と面接官のあいだで何往復もしている
- 数店舗を持つ会社:アルバイトの応募が、どの店舗のどの時間帯の枠に対するものか整理されていない
- 一人社長:業務委託で人に頼みたいが、頼む仕事の切り出し方を書き出せていない
- 個人でやっている人材紹介:求職者との面談メモを、次に推薦するときに探し出せない
- 職人を抱える会社:新人に教える手順が先輩ごとに違い、教わる側が混乱する
- 小さな会社の経営者:辞めた理由を正直に聞ける相手がおらず、同じ理由で次の人も辞めていく
- 副業人材を受け入れたい会社:契約と守秘の書類を、受け入れるたびに作り直している
製造と現場のアイデア10個
現場は、面倒が動作として残っている分野です。誰かが歩いている、探している、戻ってから書いている。横で見るだけで確かめるべきことが出てきます。
- 町工場:見積もりの計算を、担当者の経験と電卓でやっている
- 数名の製造業:図面の最新版がメール添付の中にあり、どれが最終版か現場で迷う
- 建設現場の職長:その日の作業写真を、工事ごとのフォルダに手で振り分けている
- 設備工事の会社:現場から戻ってから日報を書くので、そこで残業が発生している
- 小さな工場:機械の点検記録が紙のバインダーにあり、前回いつ部品を替えたか探せない
- 塗装や内装の職人:材料の残量を感覚で把握していて、当日になって足りないと気づく
- 数名の運送会社:配車の組み替えを、ホワイトボードと電話でやっている
- 農家:出荷先ごとに違う規格と締切を、手帳で管理している
- 修理を請け負う会社:部品の在庫と取り寄せの状況が、担当者に聞かないと分からない
- 現場を持つ会社の事務担当:職人から届く領収書の写真を、月末にまとめて仕分けている
教育と学習のアイデア10個
教える仕事は、人数が増えたところで急に管理が重くなります。語学学校の台湾トークは、生徒約370名・講師約70名の規模で、管理業務に月30時間かかっていました。困りごとが重くなる分岐点が分かりやすい分野です。
- 個人の学習塾:生徒ごとの宿題の出し方が講師の裁量になっていて、引き継ぎのときに抜ける
- 語学学校:生徒と講師の人数が増えるほど、時間割の組み替えに時間を取られる
- オンライン講座の主催者:受講生がどこで脱落したのかが分からない
- ピアノ教室:振替レッスンの調整を、保護者と個別のやり取りで決めている
- 資格スクール:質問が講師個人のメッセージに溜まり、同じ質問に何度も答えている
- 家庭教師:授業ごとの報告書を、保護者向けに毎回書き起こしている
- 小さな専門学校:出席と課題提出の状況が別々の表にあり、突き合わせに手間がかかる
- 社内研修の担当者:受講後の理解度を測る手立てがなく、やりっぱなしになる
- 子ども向け教室:体験から入会までの連絡が、担当者の記憶に依存している
- 講師業をしている個人:過去に作った教材が案件ごとに散らばり、使い回せていない
医療・介護の周辺事務のアイデア10個
この分野は、診療や治療そのものではなく、その周りの事務に限って見るのが現実的です。資格や制度が関わる領域では、まず事務作業のほうから確かめに行くほうが、始めやすく、止まりにくいです。 療育支援のOne Companyも、連絡帳の作成に1日約1時間かかっていた状態が出発点でした。
- 訪問介護の事業所:連絡帳の記入に、職員が毎日まとまった時間を取られている
- 小さなクリニックの受付:予約の変更が電話に集中し、待っている人の対応が止まる
- 歯科医院:定期検診の案内を、名簿を見ながら手で作っている
- デイサービス:送迎の順路を、毎朝ホワイトボードで組み直している
- 療育の事業所:利用者が増えるほど費用が上がる仕組みのシステムを、使い続けるしかなくなっている
- 訪問看護:記録の入力が事業所に戻ってからになり、業務時間が伸びる
- 調剤薬局の事務:在庫の期限管理を、紙と表計算の二重で持っている
- 介護施設の相談員:家族への連絡履歴が個人のメモに残り、共有されない
- 医院の事務長:シフト希望の回収がチャットと紙に分かれ、集計に半日かかる
- 福祉の事業所:請求前のチェックを、目視で二人がかりでやっている
不動産と物件管理のアイデア10個
物件は場所が固定されているので、困りごとの持ち主を探しやすい分野です。立場によって面倒の中身が変わります。
- 小さな管理会社:入居者からの設備不具合の連絡が電話に集中し、記録が残らない
- 個人の大家:内見の日程調整を、仲介会社を経由して何往復もしている
- 賃貸の仲介:同じ物件の写真と条件を、掲載先の数だけ入れ直している
- 空き家を持っている人:管理を頼みたいが、何をどこまで頼めるのか分からないまま放置している
- 物件オーナー:修繕の見積もりが業者ごとに形式が違い、そのままでは比べられない
- 民泊の運営者:清掃の入り時間と鍵の受け渡しを、都度メッセージで指示している
- 小規模なビルの管理担当:点検の報告書が紙で届き、過去分を探すのに倉庫まで行っている
- 不動産を持つ個人:物件ごとの収支を、確定申告の直前にまとめて集計している
- 店舗物件を探している事業者:内見で見るべき点が分からず、契約したあとに気づく
- 管理会社の担当者:更新時期の案内を、毎月手で抽出して送っている
地域とコミュニティのアイデア10個
地域の活動は、役員が毎年入れ替わるため、同じ面倒が毎年発生します。話を聞かせてもらいやすい分野でもあります。
- 自治会の役員:回覧板と掲示板だけの連絡が、働いている世帯に届いていない
- 地域のイベント主催者:出店者の受付と当日の連絡を、個人のメールでさばいている
- 商店街の事務局:加盟店の情報が、最後に更新されたのが数年前になっている
- スポーツチームの運営:練習の出欠確認が、毎週グループチャットの中に流れていく
- 趣味の集まりの幹事:会費の集金と記録を、現金と個人の手帳でやっている
- 子ども会の担当:役員が毎年替わるので、去年の資料の在りかが分からない
- ボランティア団体:活動の記録が写真しか残っておらず、助成金の申請時に困る
- 小さな町のPTA:アンケートを紙で配って、手で集計している
- 移住を考えている人:相談先が窓口ごとに分かれていて、どこに聞けばいいか分からない
- 会員制の集まりの運営者:入会したあとの最初の一歩が用意されておらず、静かに抜けていく
クリエイターと制作のアイデア10個
制作の仕事は、作る時間より、やり取りと確認の時間のほうが読めません。自分が当事者であることが多く、現場を知っているという軸では満点になりやすい分野です。
- 個人の映像編集者:修正指示が動画の時間に紐づかず、どこの話なのか毎回探している
- デザイナー:クライアントごとのロゴや素材の最新版が、複数のフォルダに散っている
- イラストレーター:見積もりと利用範囲の条件を、案件ごとに文章で書き起こしている
- ライター:取材の音声を聞き返しながら、言い直した部分を手で拾っている
- カメラマン:納品前の写真の選別を、クライアントとメール添付で往復している
- 制作を受けている個人:入金の予定と請求漏れを、記憶と通帳だけで確認している
- 動画チャンネルの運営者:過去回で何を話したかを探せず、同じ話を繰り返す
- Webの制作者:公開後の細かい修正依頼が、チャットに埋もれて取りこぼされる
- 音声コンテンツの作り手:配信先ごとに説明文の形式が違い、毎回書き直している
- 副業で制作を受けている人:本業の時間と締切が重なり、受けるかどうかの判断に毎回迷う
個人の家計と生活のアイデア10個
身近なぶん共感されやすい一方、お金を払ってでも解決したいかが分かれる分野です。自分が困っているという理由だけで選ぶと、確かめる相手が自分一人になりがちです。 同じ状況の人に何人か会えるかを先に見ておきます。
- 共働きの世帯:生活費の負担割合を、毎月あとから精算している
- 一人暮らしの人:契約しているサブスクが増え、何にいくら払っているか把握できていない
- 子育て世帯:学校と習い事のプリントが紙で届き、予定が家族に共有されない
- 親の介護が始まった人:医療費と交通費の領収書が、複数の場所に溜まっていく
- フリーランス:事業の支出と生活費の境目が曖昧なまま、年末にまとめて仕分けている
- 引っ越しをする人:住所変更の手続き先を、思い出した順にやって漏らす
- 保険に入っている人:契約内容を覚えておらず、受け取れるはずの給付に気づかない
- 車を持っている人:点検・保険・税の時期がばらばらで、そのつど郵便で思い出している
- 実家の片づけを控えている人:何をどこまで残すかを、家族と決められないままでいる
- 家計を見直したい人:固定費の一覧を作る前に、明細を集めるところで止まっている
100個から3つに絞る手順
ここからが本題です。一覧を眺めただけで終わる人と、翌週から動いている人の差は、この絞り込みをその場でやったかどうかにあります。手順は4段階です。
第1段階:顔が浮かぶものだけを残す。 100個を上から見て、「この人」と実名か顔が浮かぶものにだけ印を付けます。だいたい10〜20個に減ります。ここで残らなかったものは、良いアイデアでないのではなく、いまの自分には確かめる手段がないだけです。 半年後に接点ができたら戻ってきます。
第2段階:1週間以内に会えるかで削る。 残ったものについて、その人に今週か来週、話を聞かせてもらえるかを考えます。連絡先を知っている、共通の知人がいる、客として通っている。どれかが当てはまるものだけを残すと、5個前後になります。
第3段階:外れたときに何が残るかで並べ替える。 5個を、外れた場合に自分に何が残るかで並べ替えます。その業界の知識、話を聞ける相手、作った手元の道具。外れても何も残らない確かめ方を選ぶ人ほど、2周目に入れなくなります。 残るものが多い順に上から3つを取ります。
第4段階:3つに順番を付けて、1つ目の相手に連絡する。 3つのうち1つ目について、今日か明日のうちに「少し話を聞かせてほしい」と連絡します。残りの2つは、1つ目が外れたときの待機列として置いておきます。
この4段階は、通しで30分ほどで終わります。ハコブネの1DAY新規事業立ち上げイベントも、1日のうちに選んで形にするところまでを扱っています。2026年8月23日のハッカソンでは、開発が初めての人や事業を持っていない人を含む参加者全員が、4時間弱でプロダクトを完成させて発表しました。生まれたのは5本(参加者3本・運営2本)で、少人数の回ではありますが、アンケートに答えた3名の満足度は全員10点満点でした。選んで形にするところまでには、何日もかからないということです。
絞ったあとにやるのは、作ることではなく、確かめることです。その工程は、ニーズ検証の記事に分けて書いています。
よくある質問5選
質問1この100個をそのまま自分の事業にしてもいいですか?
そのまま使うのではなく、自分の周りの人に置き換えて使ってください。ここに書いてあるのは業種と面倒の組み合わせの例で、当たり外れが決まるのは、自分が会いに行ける具体的な相手がいるかどうかです。同じ面倒でも、相手の規模や地域で必要なものは変わります。
質問2100個を全部読んでも、ピンとくるものがありませんでした。
一覧の選び方ではなく、接点の少なさが原因のことが多いです。過去に働いた場所、家族の仕事、通っている店、参加している集まりを書き出して、そこにいる人の1日の動きを追ってみてください。どこかで誰かが探していたり、二度同じことを書いていたりします。
質問3すでに似たサービスがある分野は避けたほうがいいですか?
避ける理由にはなりません。株式会社Walkers代表の渡邊敦司は、公開しているポストで、検討中の新規事業に競合がいたときの反応として「普通の人:やっぱやめとくか…/BizDev:やったー市場がある!!」と書いています。すでにお金が動いていることの証拠だという見方です。ただし、同じものを同じ相手に出しても入り込めないので、どの相手に絞るかは考える必要があります。
質問43つに絞ったあと、いくつを同時に進めていいですか?
確かめるのは1つずつにするほうが進みます。2つ同時に当てると、反応が良かった理由も悪かった理由も混ざって、次に何を変えればいいか決められなくなります。残りの2つは、1つ目の判定が出るまで待機させておきます。
質問5アイデアが浮かんだら、誰かに買ってもらうという選び方もありますか?
道としてはありますが、アイデアの段階では値が付きにくいのが実情です。値が付くのは、確かめた結果や動いている状態のほうです。その理由と、売る道を選ぶ場合の現実的な条件は、事業アイデアを売る記事にまとめています。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
